永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

ローマ×名古屋のコラボメニュー⁉︎パスタ・デ・ココのカルボエッグ

先日、東京から来たフリーの編集者と一緒に仕事をした。とんぼ返りで東京へ帰るというので、KITTE名古屋の『ヨコイ』のあんかけスパと、名古屋駅構内のうまいもん通りの『味仙』の台湾ラーメンを勧めた。

「辛いものは好きなんですけど、激辛はちょっと…。あんかけスパも食べたことがないので『ヨコイ』へ行ってきます」と、言って取材先近くの駅で別れた。

そういえば、私も年が明けてからあんかけスパを食べていない。正月明け、無性に食べたいという衝動に駆られたが、〆切前の原稿の執筆作業に追われて行けずじまいになっていた。不思議なもので、一度あんかけスパが食べたいと思うと、頭から離れない。前回は忙しさもあって何とか抑えることができたが、どうやら今回は不可能なようだ。

とはいえ、名古屋市内にある『ヨコイ』や『そーれ』まで行く時間はない。以前に紹介した小牧市の『めりけん堂 小牧店』も遠い。ってことで選んだのは、カレーのココイチが運営するあんかけスパ専門店『パスタ・デ・ココ』豊山店。私の自宅からいちばん近いあんかけスパの店だ。

あんかけスパココイチのカレーと同様に、トッピングと量を選ぶシステム。ゆえに、カレーと共通のトッピングもあるし、調理から提供するまでのオペレーションも似ている。だからこそ参入したのだろうが、苦戦を強いられているように見える。カレーでは全国制覇を成し遂げたものの、店舗は愛知と岐阜に集中していて、東京には港区西新橋烏森通店の1店舗のみ('07年1月23日現在)。やはり、あんかけスパは名古屋以外では受け入れられないのだろうかと思ってしまう。

『パスタ・デ・ココ』はあんかけスパ専門店としては後発組なので、『ヨコイ』や『そーれ』などの老舗店では出さないような、ある意味実験的なメニューが揃う。ミラカンやピカタなどの定番メニューの実力は、長くやっている老舗店の方が圧倒的に上。新規参入した店は、定番にこだわるよりもどんどん新しいメニューを出し、そのなかからオリジナルのヒット商品を生み出す方が賢明だろう。

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さて、私が注文したのは「カルボエッグ」(↑写真)。そう、ローマ発祥のカルボナーラと名古屋発祥のあんかけスパとのコラボメニューである。イタリア人が見たら卒倒するかもしれない(笑)。そもそも、これがカルボナーラなのか?という疑問もあるが、それは胸の内にそっとしまっておくとして(笑)、味のレポートをさせていただこう。

結論から言えば、旨かった。もともと卵とあんかけスパとの相性は良いから、まったく不安はなかった。とくにトロトロの卵とのマッチングは最高で、あんかけソースがかなりマイルドになる。と、いうよりはまったく別物になると言ってもよい。コショウの辛さが苦手な人にはかなりオススメできるひと皿だ。

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実はカルボナーラあんかけスパのコラボメニューを食べたのは初めてではない。仕事で西尾市一色町へ行ったときに、ふらりと入った喫茶店でそのメニューがあり、興味半分で注文したのだ。『稲忠珈琲庵』の「カルボナーラ」(↑写真)がそれ。

専門店と違って、麺は太麺ではない。が、茹で上げのようで、食感はアルデンテだった。着目すべきはカルボナーラ部分である。見ての通り、かなり本格派。試しにこれだけ食べてみたが、パスタ専門店で出しても十分通用するクオリティだった。もちろん、あんかけソースを絡めても十分に美味しかった。

何もあんかけソースをかけなくても…と思う方もいるだろう。実際、私もそう思った(笑)。しかし、すぐにその考えを振り払った。これはあくまでもあんかけスパカルボナーラ版なのだ。まず、あんかけソースありき、なのである。こんなメニューが生まれるのも、あんかけソースが何にでも合う、いわば万能ソースだからであろう。

ガテン系御用達の(?)なごやめし、皿台湾

昼に台湾まぜそばを食べると、夜に仕事から帰ってきた女房がしかめっ面で「お昼、ナニを食べたの!?」と必ず言う。どうやらニンニク臭いらしい。注文時に「ニンニク抜きで」と告げても台湾ミンチに入っているのだろう。そのため、女性は敬遠するかというとそうではない。

店へ行くと、女性のグループもいるし、女性のお一人様も見たことがある。私は女房を一度だけ『らーめん まぜそば てっぺん』へ連れて行ったことがあり、女房は「これは好きかも♡」と言っていた。台湾ラーメンも『味仙』などの有名店では女性客を見かける。ニンニクのパンチがきいたピリ辛味は性別を問わず人気なのだ。

余談だが、昔はあんかけスパの店はおっさんだらけだった。今は男女比が半々か日によっては女性の方が多いときすらあるという。この状況にいちばん驚いていたのは、何を隠そう、お店の人だった(笑)。

これは完全に私の偏見だが、台湾ラーメンは現場で汗を流すガテン系の男たちに似合う。昼に台湾ラーメンをかっ喰らい、午後からの仕事のためにスタミナをチャージするのだ。それを思い知らされた店が中川区八剱町の『人生餃子』だった。ここは以前に紹介した台湾ラーメンの有名店『江楽』で修業した店主が'07年に開店させた。名店仕込みの台湾ラーメンが人気なのは言うまでもないが、ここの看板メニューは汁無しの台湾ラーメン。とはいっても、台湾まぜそばではない。

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その名も「皿台湾」。ご覧の通り、茹で上げた麺の上に炒めたモヤシやニラ、ミンチなど台湾ラーメンの具材がのせてある。もう、このビジュアルだけでヤラレてしまう人も多いのではないだろうか。

肝心な味だが、シャキシャキとしたモヤシの食感とパンチのきいたニンニクの風味、醤油ダレの香ばしさが後を引く。麺は焼きそば用ではななく、台湾ラーメンと同じものを使用。ややかために茹でてあり、具材とともに食べたときの食感が絶妙。ピリ辛の味付けなので、ご飯の上にのせて食べたくなるほど白メシとの相性は抜群だが、夏場はビールを片手に楽しみたい。

このメニュー、もともとは店の賄いだったそうで、常連客から人気が広がった。その勢いは凄まじく、寿がきや食品から商品化もされていて、私も何度か買って家で作ったことがある。かなりリアルに再現されているものの、やはり店で食べた方が旨い。まぁ、実店舗と比較されるのがこのテのチルド食品の宿命でもあるのだが。

私が食べに行ったとき、店内は全員男性だった。その多くは頭にタオルを巻いた作業服姿のガテン系。皆、汗だくになりながら一心不乱に皿台湾や台湾ラーメンをすすっていた。それがやたらと「絵」になっていたのである。

台湾まぜそばが女性に支持される理由として、味以外にそのビジュアルも挙げられる。丼の真ん中に盛られた台湾ミンチの上にちょこんと卵の黄身がのり、ネギやニラ、海苔などが美しく盛り付けられていて、思わず、スマホで写真が撮りたくなる。で、インスタなどSNSにアップする。それが台湾まぜそばなのだ。

一方、皿台湾はどうか。茹で上げた麺に強火でチャチャッと炒めた具材がどさっと盛られているだけ。無骨なのだ。目の前に運ばれたとき、スマホで写真を撮るよりも一刻も早く胃袋に沈めたいという衝動に駆られる。無骨ながらもダイレクトに食べたいという欲望に訴えかけるのだ。これを男メシと言わずして何と言おう。

「海老おろしきしめん」はきしめんの最高峰だ!

丼ものの最高峰って何だろう。ここ何年かで流行ってるローストビーフ丼?それともステーキ丼?いや、マグロ丼?海鮮丼?それとも鰻丼か?では、きしめんの最高峰は何か。私は「海老おろしきしめん」だと思う。その名の通り、海老天と大根おろしをのせたきしめんである。特に夏場はこれが無性に食べたくなる。値段を見てガマンすることがほとんどだが。大半の店は温・冷の両方を用意していていて、一年を通じて楽しめる。

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先日、港区方面へ取材へ行った際に、旨いと評判の『高砂』へ行った。初めて訪れる店は「かけ」と決めている私だったが、なかなか港区に来る機会もないと思ったら、どうしても食べたくなった。で、温かい「海老おろしきしめん」(写真)を注文することに。

大きな海老天とたっぷりの大根おろしがどーんとのっている「海老おろしきしめん」もイイけど、ここのは海老天だけではなく、玉ネギやカボチャ、大葉、海苔の天ぷらもどっさりで何だかむちゃくちゃ得をした気分。しかも、どの天ぷらも絶妙な火加減で揚げてあり、野菜は甘みが見事に引き出されていた。圧巻だったのは海老。プリプリの食感とともにじんわりと甘さが広がるのである。天ぷらの専門店と遜色のない完成度に大満足だった。

この天ぷらに負けていないのが、麺。もっちりとした弾力があり、箸で持ち上げると、ゴムのようにビヨンと伸びて箸が引き戻されるほど。濃厚なつゆが適度に染みた麺の旨いこと!もう、思い出しただけでまた食べたくなってきた。私が食事していたとき、店のご主人が店内奥にある工房で麺を切っていた。トントントンとテンポ良く響く包丁の音がとても心地良い。ただでさえ旨いきしめんが余計に旨くなった。

食べている途中で今さらながら気が付いたことがあった。前にも書いたように、名古屋の麺類食堂では、天ぷらや玉子とじなどの種物は「白つゆ」になる。しかし、「海老おろしきしめん」は「赤つゆ」だった。それも「ざるきしめん」に使うような濃厚なつゆを温めてあったのだ。いや、断言はできないが、私はそう感じた。

今までに私が食べた「海老おろしきしめん」はどうだったのか。パソコンに保存してある写真を見返すと、夏に食べたくなるメニューだからなのか、冷たい「海老おろしきしめん」が圧倒的に多かった。温かいものは1つだけ見つかった。

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それは名東区にある『鈴家』。ここもまた地元ではかなりの人気店だが、「海老おろしきしめん」がこれ。ここも海老天以外にもナスや大葉の天ぷらが入る。あと、ホウレン草も。着目すべきは、つゆだ。ご覧の通り、「かけ」のように、丼になみなみと注がれている。天ぷらのサクサク感が失われてしまうものの、染み出した油がつゆを美味しくさせる。大根おろしもたっぷり入っているのでさっぱりと食べられた。「海老おろしきしめん」に「赤つゆ」を使うのは、大根おろしとの相性を考えてのことだと私は推測するが、いかがだろう?

名古屋エリア限定の「志の田」をご存じか?

少しシリアスな内容が続いたため、ちょっとここらで箸休め(^^;)

私は初めて訪れる店できしめんを食べるなら、「かけ」と決めている。うどんと違って、カマボコや煮揚げ、青菜(ホウレン草など)、花かつおと具材が豪華なのでシンプルな「かけ」でも十分に楽しめるのだ。名古屋人好みに甘辛く煮た油揚げの味付けを堪能したり、店によってはカマボコを飾り切り、とまではいかないにしてもカッコよく包丁が入れてあったりするのを眺めるだけでも楽しい。

通常、名古屋の麺類食堂では「かけ」のきしめんにはたまり醤油の「赤つゆ」、天ぷらや玉子とじには白醤油の「白つゆ」とそれぞれ使い分けている。「赤つゆ」は「かけ」でしか味わえないのだ。まぁ、注文時にあらかじめ伝えれば、大半の店が作ってくれるのだが。逆パターン、つまり「かけ」を「白つゆ」で注文するのはあまり聞いたことがない。ひょっとしたら追加料金が必要になるかもしれない。興味ある方は試していただきたい。

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なぜ、麺類食堂は「赤つゆ」と「白つゆ」を使い分けているのか、また、「白つゆ」に使う白醤油についてはいずれまた詳しく触れようと思っているが、「白つゆ」で私が好きなのは、「志の田きしめん」(写真)。おそらく、名古屋エリア以外の方は頭の中が「?」だと思う。なぜなら、「志の田」は名古屋エリア限定なのだ。具は、刻んだ揚げとカマボコ、長ネギといたってシンプル。「かけ」では油揚げを甘辛く煮ているが、「志の田」は関西の「きざみうどん」と同様に味付けはせずそのまま。

実は「志の田」という名称など詳しいことはわかっていない。大阪府和泉市北部(旧信田村)には葛の葉狐の伝説があり、油揚げのことを信田(しのだ)、きつねうどんを信田うどんと呼ぶことから、大阪が発祥、もしくは何かしらの関係があるという説がある。ほかにはシノダさんという人が作ったなんて説もある。しかし、いずれも根拠がない。きしめんのルーツと同じで、大衆文化とはそういうものかもしれない。名古屋エリア限定でこのようなメニューが今もなお残っていることがすばらしいではないか。

 写真は東区泉の『角丸』の「志の田きしめん」。私はイイ意味でゲスい味の「赤つゆ」こそきしめんだ!と思っていたが、これを食べてから考え方がガラリと変わった。同じムロアジがベースのだしを使っているにもかかわらず、白醤油にしただけでこんなにも上品な味わいになるのだ。

それに、白醤油はたまり醤油と違って野菜などを煮込んでも色が染まらないため、ネギやかまぼこ、油揚げの彩りもよい。白醤油は京都の老舗料亭も吸い物や炊き合わせに用いるほど高級な調味料なのだ。それを惜しげもなく、きしめんのつゆにダバダバ使う麺類食堂はなんと太っ腹!いやぁ、実にきしめんは奥が深い。

リメンバー!なごやめし・3

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河村たかし名古屋市長宛に要望書を提出してから、新メンバーもくわわり、私たちは「なごやめしの日」制定委員会と名乗って活動することにした。まずは飲食店を営む方に「なごやめしの日」制定の意義や私たちの思いを伝えようと、知り合いを中心に声をかけて集まっていただいた。ところが、私たちの準備不足が原因で、意義や思いよりも方法論が先行してしまった。そのため、巷にある既存の町おこしイベントと混同される方もいて、言い出しっぺである私自身が「なごやめしの日」の奥にある理念に立ち返らねばと痛感した。

また、ほぼ同時進行で「なごやめし」とは何か?についても議論を進めなければならなかった。このブログにも書いた「なごやめし」の定義はその頃に話し合ったことがベースとなっている。そのなかで、あらためて気が付いたのは、店と客との距離の近さだった。とはいえ、現在、個人経営の店であっても、ファストフードやファミレスの、極端な言い方をすれば「いらっしゃいませ」と「ありがとうございました」だけの画一的なサービスになっているのではないかと思ったのだ。

個人経営の店の魅力は客がお金を払い、店が商品を提供するだけではない、昔からの友人のような、ときには家族のような、何ともいえない心地よさであると私は思う。ジャンルこそ違うが、私自身、20代のときに通い詰めていたラーメン屋さんがあった。当時、自衛隊員の友人とよく遊んでいて、たまたま入った店だった。

店主は気さくに話しかけてくれて、友人が自衛隊員であると話すと大変喜んだ。店主は元自衛隊員で、「後輩から金をとるわけにはいかない」と、その日の飲み食いはタダにしてくれた。その後、私は常連となり、仕事のことやプライベートなことも相談できる関係になった。もちろん、タダになったのは最初の1回だけで後はきちんとお金を払っている。今の若い人はそういう自分だけの、お気に入りの店はあるのだろうか。「なごやめしの日」はそれを見つけるきっかけにもなると思った。

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私たちは何度も議論を重ねるなかで、「なごやめしの日」制定委員会から「なごやめし8(エイト)どえりゃこむ」という名称に変更した。これから参加店を募集するにあたって、堅苦しいものではなく、親しみやすさを第一に考えてのことだった。

そして、参加店には「うみゃぁで なごやめしの店」と書かれたプレートと毎月8日に店内に取り組み内容を掲示するPOP用紙を配布して、参加店に掲げてもらうことにした。プレートには通しナンバーが記されていて、抽選会を開いて決めようということになった。さらに、公式HPも作成し、店の情報と8日の取り組みを発信することにした。ちなみに会費は「なごやめし8(エイト)」にちなんで8000円。巷のグルメ情報サイトに比べれば破格の値段だが、個人経営の店がどれだけ参加してくれるのかはまったく読めなかった。

私は雑誌の取材で訪れる店には原則として撮影のために用意してくれたメニューの代金を支払っていた。「要らない」と言われても半ば無理矢理に受け取ってもらったこともある。それほど貸し借りの関係を作るのが嫌だった。店と私はどこまでも対等でなければならないのだ。だから、私自身、店からお金をいただくことにかなり抵抗があり、なかなか積極的に参加を勧められなかった。

ところが、「なごやめし8(エイト)どえりゃこむ」の取り組みや私の思いをFacebookに書き綴っていると、友人として繋がっている飲食店経営者から参加したいというメッセージやコメントをいただいた。それも2人や3人ではなく、最終的には30人近くの方から申し込みがあり、涙が出るほど嬉しかった。20年以上もずっと1人で仕事をしてきて、初めて報われたような気がした。(つづく)

リメンバー!なごやめし・2

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「なごやめしを食べながら名古屋の街づくりについて考える会」とは、毎回設けるまちづくりに関するテーマに対して、「なごやめし」を食べながら年齢や性別、肩書きを超えて語り合う集まりである。いちばんの目玉は、河村たかし名古屋市長が臨席し、市民の意見に耳を傾けてくれるところだ。河村市長はいつも

「意見は要望書としてまとめて出しゃぁいい。要望書が出ると、議会で話し合わんといかんでよ」と話していたので、回を重ねるなかで私たちが考えたことを要望書として提出しようということになった。その頃、若い世代の「なごやめし」離れについて、多くの店主から話を聞いていたこともあり、私はいかにすればそれを食い止めることができるかを考えた。

若者向けのイベントを開催するにもお金や時間だけでなく、人員も必要となる。夫婦や家族で営んでいる店は、休んでまでイベントに参加できない。それに『なごやめし博覧会』『NAGO-1グランプリ』などの町おこしイベントはすでにある。スポンサーもない私たちが参入するにはハードルが高すぎる。

では、個人経営の店を中心としたグルメガイドブックやwebを制作するのはどうか。私がボランティアで取材や撮影を行ったとしても、デザインや印刷にお金がかかる。第一、それらを手に取るなり、スマホやPCで見てもらわなければならない。どのようなプロモーションをかけるのかが課題となる。

やはり、資金力のある企業や商工会議所でなければ、町おこしは無理なのか…。諦めかけたその時、1つのアイデアが浮かんだ。名古屋市の市章である「マル八」にちなんで、毎月8日を「なごやめしの日」として制定し、その日に飲食店へ足を運ぶと、何かしらのトクをするというもの。

毎月8日を「なごやめし」を食べることで郷土の食文化に思いを寄せる機会とするのだ。さらに、個人経営のみならず、小学校の給食や大学の学食などでも実施されれば、希薄といわれる名古屋人の愛郷心も育まれるのではないかと。

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「なごやめしを食べながら名古屋の街づくりについて考える会」の運営メンバーに話すと、すぐにそのアイデアを「要望書」としてまとめることとなった。そして私たちはそれを河村市長に手渡すために名古屋市役所を訪ねた。

事前に市政記者クラブにプレスリリースを流していたこともあって、訪問当日は新聞記者やテレビ局の取材クルーが大勢集まっていた。この「なごやめしの日」のアイデアは、メディアが必ず興味を持つと私は思っていたが、ここまで注目されるのは意外、というか嬉しい誤算だった。

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秘書の方に市長室へ案内され、河村市長と対面。「なごやめしを食べながら名古屋の街づくりについて考える会」で何度もお目にかかっているし、私自身も数え切れないほど取材や撮影をしているが、こういう形で再会すると緊張してしまう。それはほかのメンバーも同じだったようで、それぞれがたどたどしく「なごやめしの日」や名古屋の将来について思いの丈を語った。河村市長は「要望書」を受け取り、議会で検討することを約束してくれた。

市長室を出ると、待ち構えていた新聞記者やテレビ局の取材クルーから質問攻めにあった。とくに私たちのグループの代表は多くのカメラに取り囲まれて、ワイドショーで見かけるような絵になっていた。この時点ではまだ「なごやめしの日」はアイデアでしかなく、実体がなかった。囲み取材を受ける代表を見ながら、私はこれをどのように広めようかと考えていた。(つづく)

リメンバー!なごやめし・1

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先日、ある仕事の打ち合わせで、私よりもやや年下、30代半ばくらいの経営者数人と話す機会があった。ランチなどで日常的に「なごやめし」を食べているのかを聞いてみたところ、ほとんど食べていないという。名古屋駅新幹線地下街『エスカ』など好立地に出店しているような有名店はまだしも、地元の個人経営の店には入ったことすらないというのだ。

やっぱりそうか、と思った。メディアが採り上げる「なごやめし」のブームは、地元で起こっているのではなく、東京をはじめとする県外で起こっているのだ。それは今始まったわけではない。「『なごやめし』とは何か?」でも触れた通り、もともとブームは東京で起こり、逆輸入された形で地元に上陸したのである。ただ単にそれが10年以上経った今でも続いているというわけだ。ヘタをすると、県外から「なごやめし」を目当てに名古屋を訪れる観光客の方が「なごやめし」のことをよく知っているかもしれない。

資本も発信力もある有名店は笑いが止まらないだろうが、笑い事ではないのは、個人経営の店である。昔も今もブームの恩恵をほとんど受けていないのだから。しかも、観光客だけではなく、地元の若い世代も足を運ばないとなると、店主に子どもがいても後を継がせることはないだろう。店は現店主の代限りとなる。これは文化の喪失ともいうべき由々しき事態である。

実際、「なごやめし」を出す店の客層は総じて高い。きしめん味噌煮込みうどんを出す麺類食堂は60代~70代がメインである。一見、若者が好みそうな、あんかけスパの店でもコアな層は40代~50代。某あんかけスパ専門店の店主は、

「20代のお客さんは、社会人になって上司に連れて来られて初めて食べたという方が多いです。つまり、それまであんかけスパを一度も食べたことがないということです」と、残念そうに話した。

私は'02年頃からフードライターとして、主に個人経営の店を中心に取材してきた。彼らが客を喜ばせんがためにどれだけ味にこだわり、それを日々追求しているか。そして、彼らが当たり前だと思って毎日やっていることがいかに大変なことであるか。私も少しはわかっているつもりである。あまり多くを語らない彼らに代わって、世の中に発信することがフードライターとしての私の使命だと思っていた。

具体的に言えば、県外から彼らの店へ食べに来ていただきたいと。一昨年あたりから、若い世代の「なごやめし」離れを耳にするようになり、地元での消費なくして県外への発信はあり得ないと思いはじめた。郷土料理は地元で長く食べられてきたからこそ存在意義があるのだ。

地元の人々に、もっと「なごやめし」を食べてもらうにはどうすればよいのか。私のような木っ端ライターではやれることに限りがあるし、どうせなら楽しくやりたい。ちょうどその頃、私はフードライターとして「なごやめしを食べながら名古屋の街づくりについて考える会」なる集まりの運営メンバーになっていた。(つづく)