永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

「名古屋ちゃんぽん」と呼びたい!『長命うどん』のミックス麺

沖縄からのお客様から、「ちゃんぽん」なる沖縄料理のことを聞いた。沖縄で「ちゃんぽん」といえば、「卵でとじた野菜炒めをのせたご飯」のことらしい。そもそも「ちゃんぽん」とは、2種類以上のものをまぜこぜにすることであり、料理においては「長崎ちゃんぽん」が有名だ。滋賀県には「近江ちゃんぽん」なんてのもある。

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富山へ取材に行ったときのこと。高岡駅構内の『うどん そば 今庄』にも「チャンポン」というメニューがあると聞き、立ち寄ることにした。それは一つの丼にうどんとそばが入っているというものだった(写真)。

「なーんだ。“うそ”じゃん」と、少し残念に思うのは私だけではあるまい。なぜなら、名古屋にも同じようなメニューがあるのだ。

それは名古屋市内を中心にチェーン展開する『長命うどん』で食べられる。『長命うどん』は、大正2年創業。その年に納屋橋が改築され、開通の式典として橋渡り式が行なわれた。橋渡り式では、3代夫婦で家業が続いた縁起の良い夫婦が最初に渡るという習わしがあり、その一組に選ばれたのが創業者の夫婦だった。その際に名古屋市長から「長命」という名を授かったことから、『長命うどん』という屋号が生まれたという。ちなみに和菓子店『伊勢屋』の店主夫婦も選ばれ、後に屋号を『納屋橋饅頭』と改めて現在に至っている。

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私は自宅の近くにある『長命うどん 藤島店』へよく行く。いつも注文するのは、以前にこのブログでも紹介した「きしめん」か「う中(ちゅう)」(写真)。

「う中」とは、その名の通り、うどんと中華そばが一つの丼に入っているメニューで、「うどん・中華ミックス」とも呼ばれる。また、きしめんと中華そばの「き中」やうどんとそばの「うそ」など、さまざまな組み合わせも可能だ。ただし、藤島店で注文できるのは「う中」のみ。支店によっては不可のところもあるかもしれないので注文時に確認した方がベターだ。

つゆはうどんと同じものだが、まったく違和感がない。コショウをやや多めにかけると、つゆ全体が引き締まり、よりラーメンに近い味になる。私は卓上のすりゴマと七味唐辛子も多めにかける。それと、天ぷらは絶対にのせるべき。ムロアジやさば節のダシがしっかりときいた名古屋風のつゆと染み出した天ぷらの油が相まって、メチャクチャ旨くなるのだ。

実は私、几帳面な性格なので、まずはうどんから食べる。次に中華そば。つゆが染みた天ぷらとともにそれぞれを交互に食べすすむうちに丼の中で二種類の麺が混ざってくる。ここでうどんと中華そばを一緒に箸で持ち上げて食べる。モチモチのうどんとコシのある中華そば、それぞれ異なる食感を楽しむのだ。これがもうたまらん旨さ!

しかも、値段は単品と同じなので、かなりお値打ち。でも、いったいなぜこのようなサービスが生まれたのだろうか。中村区の本店で修業した後、春日井市熊野町に開店させた『長命うどん 大嶌店』の店主、大嶌伸治さんによると、

「本店にいつも小盛(並)の麺を二種類同時に注文する常連のお客さんがいたそうです。しかし、どうしても食べているうちに一方の麺がのびてしまいます。それを見た大将が二種類の麺を一つの丼に入れてあげたのがはじまりと聞いています」とのこと。「う中」は本店の店主の「出来たてを食べてもらいたい」という、おもてなしの心から生まれたのである。何ともイイ話ではないか。

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以前、大嶌店へ食べに行ったときに大嶌さんに作っていただいたのが、うどん+きしめん+中華そばの「うき中」に「台湾ミンチ」トッピングした「台湾うき中」。肉の旨みがつゆに染み出すので、こちらの方がラーメン感が強い。と、いうか、ラーメンのスープそのものだ。かなりのボリュームだったが、あまりの旨さにあっという間に平らげてしまった。

「う中」や「き中」、「うそ」など一連の『長命うどん』のミックス麺を個人的に「名古屋ちゃんぽん」と呼びたい。