永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

「なごやめし」と「名古屋嬢」の類似点

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「本当遠慮がないよね。だからちょっとなんだろう…。解放してくれんだよね…自我をね。どっかみんなさ、こう格好付けたいと思って生きてるじゃない。『なごやめし』はそれを許さないのよ。丸裸になりなさいっていうね…」

これは、『マツコ&有吉の怒り新党』(テレビ朝日)でマツコ・デラックスさんが「なごやめし」について語ったものである。県外の方から見た「なごやめし」のイメージを実にわかりやすく解説していて、テレビを観ながら私もウン、ウンと頷いていた。

私はマツコさんの「解放してくれる」という言葉の意味を「食べたい!という欲求に直で訴えかける」と解釈した。しかし、「なごやめし」を出す店は確信犯的にそんなメニューを作っているのかというと、そうではない。「昔からこうだ」とか「よそでもこうだ」からやっているにすぎないのだ。

昨日のブログに書いた味噌煮込みうどんはまさにダイレクトに食欲を刺激するメニューだ。グツグツという食欲をソソられる音と蓋を開けたときに立ち上る湯気。人々はそのダブル攻撃でヤラれるのである(笑)。そんな味噌煮込みうどんと同等の破壊力を持つのがイタリアンスパゲティだろう。

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やはり、これも音とビジュアルが大きく関係している。おそらく、ただ単に鉄板にケチャップ味のスパゲティが盛られているだけではナポリタンと何ら変わらない。スパゲティの周りに溶き卵を流しかけているからこそゴージャスなビジュアルとなり、食欲をかき立てられるのだ。しかも、喫茶店という普段使いの場でありながら、ジュージューと音を立てて運ばれてくるイタスパをテーブルで迎え入れる瞬間、セレブな気分が味わえる(笑)。

話は変わるが、'05年の万博開催の前後からリーマン・ショックで不況に陥る'08年にかけて、名古屋は「一人勝ち」と呼ばれるほどの好景気に沸いていた。その頃、東京の編集部からオファーが相次いだのは、全身ブランド品に身を包んだ「名古屋嬢」と呼ばれる女の子の撮影だった。「名古屋嬢」という言葉は、名古屋の裕福な家庭で生まれ育ったファッションに敏感な女性のことで、光文社のファッション誌『JJ』から生まれた。つまり、「なごやめし」と同様に東京が発信元のブームである。

栄の三越の前あたりで声をかけて撮影するのだが、彼女たちの特徴は、漫画『エースをねらえ!』のお蝶夫人のようなゴージャスな巻き髪と高級ブランド品のバッグやアクセサリーだった。とくにバッグブランドのロゴマークが大きく、シャネルやルイヴィトンだとひと目ではっきりと分かるものが多かった。同行した東京のライターは、

「東京の場合、ぱっと見でブランド物だと分からないものを選ぶんですけどね」と、大変驚いていた。

「なごやめし」の「遠慮のなさ」は、ロゴマークの大きいブランドバッグやゴージャスな巻き髪など「名古屋嬢」の「ファッション」と似ていると思うのは私だけだろうか?ひと昔前、名古屋の中小企業の経営者の多くは、名古屋で一番になることをめざしていた。大阪は異文化として捉えているから眼中になく、東京はとても勝てないから見ないフリをして。だから、食にしても、ファッションにしても独自のスタイルが生まれたのではないかと私は考える。

ちなみに写真は、高岳『喫茶 キャラバン』の「イタリアンスパゲッティ」。コクと酸味のバランスが秀逸な自家製のトマトソースや生クリームをくわえたトロトロの卵など従来のイタスパをブラッシュアップさせている。私のお気に入りの一品である。