永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

きしめん人気復活のカギとなるのは

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2年ほど前から、きしめんの旨さにハマった私。今では週2回以上のペースで食べている。身近にこんな旨いものがあったのに、気が付かなかったことがライターとして情けないったらありゃしない。

これまで何度かグルメ情報誌『おとなの週末』やグルメ情報サイト『メシ通』で、美味しいきしめんの店を紹介したり、きしめんの魅力について発信してきた。しかし、いまだに全国はおろか地元でもブレイクしていない。私の力不足と言われればそれまでだが、いまいち人気に火がつかない理由を私なりに考えてみた。

一つは、ほかの「なごやめし」と比べてビジュアル的に地味であるという点。以前、ある麺類食堂の店主から、こんな話を聞いた。

「県外からカップルのお客さんが来られて、味噌煮込みうどんときしめんを注文しました。味噌煮込みうどんの蓋を開けた瞬間、『お~っ!』と歓声が上がるわけです。その後にきしめんを運ぶと、シーンと静まりかえってしまうんです」

悲しいけれど、その光景が目に浮かぶ。土鍋の蓋を開けたときに余熱でグツグツしているのが味噌煮込みうどんの最大の見せ場である。きしめんのつゆの上で花かつおが熱でゆらゆらと揺れる様とでは勝負にならないのは明らかだ。天ぷらや月見、玉子とじにしても勝てないだろう。

味噌煮込みうどんに限らず、「なごやめし」の大半はビジュアルにインパクトがある。きしめんはカマボコとホウレン草などの青菜、煮揚げ、花かつおと、ほかの地域には見られない独自の具材をのせているものの、フツーといえばフツーなのだ。

地元の人々もきしめん人気の衰退を黙って見ていたわけではない。きしめん発祥の地のプライドをかけて、県農業総合試験場はうどん・きしめん用の小麦「きぬあかり」を開発したり、製麺業者も創作メニューを作ったりと、これまでさまざまな取り組みをしてきた。が、きしめんをこよなく愛する地元の人間としてあえて苦言を申し上げたい。「きぬあかり」については専門家ではないので何ともいえないが、創作メニューはいかがなものかと。

創作メニューがすべていけないというわけではない。実際、創作きしめんが人気を博している店もあるし、本当に美味しい店はこれまで私も取材してきた。創作メニューをヒットさせるには基となるオリジナルの美味しさを超えねばならないのだ。サラダ風やカルボナーラ風のきしめんや麻婆ソースをかけたきしめんなどをみかけたことがある。「若い世代に食べてもらうため」というのが理由らしいが、はたしてそれらはオリジナルを超えたのだろうか。カルボナーラが食べたければ、パスタ店やイタリア料理店で食べた方が絶対に旨いだろう。

きしめん人気を復活させるには、基本に立ち返るしかないと思う。ムロアジがベースのダシやたまり醤油を合わせたつゆ、グミのような弾力のある平打ち麺。そしてシンプルな具材。それら一つ一つを見つめ直し、ブラッシュアップしていき、由緒正しい、正統派のきしめんを作り上げるのだ。創作メニューはその次だ。

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昨年9月、「愛知県めんるい組合」は、栄のオアシス21で「きしめんはえりゃ~(スゴイ)!!」なるイベントを開催した。地元の人でもあまり知らない独自の製麺技術や赤(たまり醤油)と白(白醤油)のつゆ、ムロアジのダシなど実演を交えながら楽しく、わかりやすく解説した。参加者からは「知らなかった!」という感想が多く寄せられた。このように、地元の人が郷土料理について学ぶ機会も必要だろう。微力ながら私もライターとして、きしめんの魅力をこれからも発信していく所存である。

※写真は東区泉の『角丸』の「きしめん」。つゆも麺もど真ん中の名古屋味。店主の日比野宏紀さんは、今年11月「あいちの名工」に選ばれた。こだわり抜いた職人の味を是非とも堪能してもらいたい。