永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

モヤシ入り台湾ラーメンから伝わる名古屋のクラフトマンシップ

2年前に放映されたドラマ『LEADERS リーダーズ』を憶えているだろうか。来年3月に続編も放映されるようだが、国産自動車に人生をかけたトヨタ自動車創業者、豊田喜一郎を描いた物語である。外国車をバラバラに分解して、パーツの一つ一つを研究・分析するシーンが印象に残った。それはニコンキヤノンなど国産のカメラも同じで、戦後に外貨獲得のための国策としてドイツ製の「ライカ」を真似て作ったのがはじまりだ。今では自動車にしろ、カメラにしろ、日本の製品はかつてモデルとした外国製よりも高性能となり、世界を席巻している。

『LEADERS リーダーズ』を見たとき、私はふと、台湾ラーメンのことが頭に浮かんだ。以前にも書いたが、台湾ラーメンの発祥は今池の台湾料理店『味仙』である。台湾ラーメンが注目を集めるようになると、多くの店がこぞって『味仙』を真似て台湾ラーメンを作った。これが結果的に台湾ラーメンを広めることになり、『味仙』が発祥の店としてその名を轟かせることにもなった。ちなみに『味仙』は台湾ラーメンを商標登録していない。今もしようとは思っていないという。実にすばらしい決断である。

『味仙』の台湾ラーメンの具材は、ニンニクと唐辛子で味付けした台湾ミンチとニラのみ。ゆえに、麺をすすったと同時に暴力的ともいうべき辛さが口の中で大暴れする。これが醍醐味だという人もいるかもしれないが、私はこれが苦手なのだ。

真似た店がいくら頑張っても発祥の店の名を冠することはできない。しかし、味に関しては後発組だけにいろんなアレンジができるというメリットもある。私が着目したのは具材に台湾ミンチとニラ以外にモヤシを入れた店があるということ。ここに名古屋のクラフトマンシップを感じざるを得ないのだ。

『LEADERS リーダーズ』で外国車を徹底的に研究・分析することでそれを超えたように、すでに味も知名度も完成している『味仙』の台湾ラーメンへの差別化がモヤシだったのではないかと私は勝手に想像している。まあ、熱烈な『味仙』ファンにとっては、台湾ラーメンにモヤシを入れるのは邪道かもしれないが。

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写真は守山区にある台湾ラーメンの有名店『江楽』台湾ラーメン。ご覧の通り、ここも具材にモヤシを採用している。しかも、麺が見えないほどたっぷり。麺とともにモヤシとニラを口に入れると、口の中で辛さを感じるまでにわずかなタイムラグが生まれるのである。このタイムラグが重要で、1秒もないほどわずかな時間でスープの旨みと台湾ミンチから染み出した肉の旨みが一体となってふわっと広がり、その後に辛さがじんわりと広がるのだ。これがモヤシ入り台湾ラーメンの醍醐味だろう。

では、台湾ラーメンをさらにアレンジした台湾まぜそばはどうか。『らーめん まぜそば てっぺん』『麺屋やまひで』『らーめん まぜそば あらし』など発祥の店である『麺屋はなび』のオマージュはあるものの、いまだに元祖を超えるアレンジをした店は少ないと思う。

『麺屋はなび』の新山直人社長は、台湾まぜそばを「新なごやめし」と呼んでいる。'08年にメニュー化されたので、数ある「なごやめし」のなかでも新しいのは紛れもない事実だ。『麺屋はなび』を超える店が現れたとき、台湾まぜそばは「新」がとれて「なごやめし」として定着するのではないか。