永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

名古屋の旅で食べ損ねた「なごやめし」をフォローできる駅弁

お正月休みということで、帰省や旅行で名古屋へ訪れている方も多いと思う。電車での旅の楽しみといえば、駅弁。車窓からの景色を眺めながら、その土地の名物を詰め合わせた弁当を肴に缶ビールをグビリ。これ以上の贅沢はないだろう。

フリーカメラマン兼ライターという仕事柄、私は電車の旅が多い。ひと仕事を終えて、電車に乗り込むときにその駅の名物駅弁を買って食べるのを楽しみにしている。しかし、種類が少ないのである。全国から旨いものが集まる東京駅は別として、大半の駅では幕の内弁当以外の名物駅弁が2,3種類くらいしかない。つまり、駅弁にできるような名物そのものが少ないのだ。

一方、名古屋駅には、名古屋コーチン味噌かつ、エビフライ、天むす、ひつまぶしなど、ありとあらゆる「なごやめし」の駅弁が揃。どれにしようかと迷うほど種類が多い。しかも、駅弁とはいえ、地元の駅弁メーカーが研究に研究を重ねて作り上げているので、どれもレベルが高い。名古屋での旅で食べ損ねた「なごやめし」を十分にカバーできるだろう。

 名古屋の駅弁メーカーは『松浦商店』『名古屋だるま』の2社。いずれも、JR・近鉄名古屋駅構内で販売している。大正11年創業の『松浦商店』は、明治時代に大須で営んでいた料亭がルーツ。それゆえに焼き魚や煮物、だし巻き卵を詰め合わせた幕の内弁当には定評がある。「なごやめし」の弁当も幕の内弁当をベースにしたものが多く、食材や調味料にこだわり、地元で昔から親しまれた味を追求している。

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この「天下とりご飯」は昭和12年の発売した「親子めし」がルーツの大ベストセラー。鶏のダシで炊き上げたご飯に鶏と卵のそぼろを敷き詰めたとりご飯は『松浦商店』の自信作。チキンカツや鶏肉の磯辺揚げ、つくね串など、鶏づくしのおかずもていねいに作られている。

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次は「名古屋おもてなし弁当」。鰻まぶしご飯と天むす、あんかけスパ味噌かつ、エビフライなど「なごやめし」が一度で味わえる弁当だ。注目すべきは、左上の煮物の中に入るかまぼこ。

かまぼこを縁取る色は全国的にピンク色が一般的だが、名古屋では朱色が主流なのだ。その発祥については、織田信長が朱色を好んで使用していたからとか、さまざまな説があるものの、はっきりと判っていない。ただ、ハレの日に用いられる朱色は、名古屋人にとって金色に次ぐ人気カラーの一つであることは間違いない(笑)。豆味噌やたまり醤油を使っているせいか、「なごやめし」の多くは茶色であり、朱色のかまぼこをのせることで見た目がイッキに華やかになるという実用的な意味もあるだろう。

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最後は「ひつまぶし弁当」。1380円('17年1月現在)と駅弁では高級な部類に入るが、庶民にとって高嶺の花となったひつまぶしがこの値段で食べられると思えばむしろ安い。実はこの弁当、最近リニューアルしたばかり。三河一色産をはじめとする国産鰻はそのまま。従来品はお茶入りのふりかけが添付されていたそうだが、本物のだし汁と薬味のワサビ、山椒も付いて、より本格的な味わいに。冷めていても、十分に楽しめる。

もう一つの駅弁メーカー、『名古屋だるま』は常時20種類揃う商品のなかで実に7割が多種多彩な「なごやめし」。食材にこだわっているのはもちろん、味付けも地元の専門店と同じどころか、それ以上のクオリティ。それだけにお土産代わりに購入する客も多いという。

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『名古屋だるま』でいちばん人気は、この「純系名古屋コーチン とりめし」。名古屋コーチンは、「なごやめし」のなかでもかなり高価。専門店で焼鳥や唐揚げ、鍋のコースを食べると1万円は覚悟せねばならない。そのため、地元でも食べたことがない人がいるほどだ。名古屋の旅で食べ損ねた、というか予算の都合で食べられなかったコーチン料理を駅弁でフォローできるのはウレシイ。

さて、この「純系名古屋コーチン  とりめし」は名古屋コーチン協会の認定商品。コーチンのだしで炊き上げたご飯の上にジューシーな名古屋コーチンのモモ肉がどーんとのる。見た目は実にシンプルだが、ご飯の一粒一粒にギュッと凝縮されたコーチンの旨みが頬張るごとにじんわりと広がる。不動のナンバーワンというのも納得だ。

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『名古屋だるま』は、豆味噌を使った弁当も定評がある。こちらは味噌ダレのベースに『まるや八丁味噌』を使った「だるまのみそかつヒレ重」。弁当のヒレカツはパサついた、残念な食感になりがち。しかし、こちらはしっとりとした食感。

特筆すべきはやはり味噌ダレのクオリティだ。しっかりと衣に染み込んだ味噌の味や香りはまさに地元の味。ただでさえ旨いのに、半熟卵を付けるという名古屋人にはたまらないツボをしっかりと押さえている。是非、卵と絡めて食べてもらいたい。

今回紹介したのは、「なごやめし」の弁当のなかでもほんの一部。駅構内の売り場でさんざん迷い倒すのもまた、旅のよき思い出になるだろう。それでは、よい旅を!