永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

寒い季節は名古屋のご当地鍋「鶏の味噌鍋」で身も心もポッカポカ

鍋が美味しい季節である。鍋料理と聞いて、皆様は何を想像するだろうか?博多のもつ鍋や下関のフグちり、秋田のきりたんぽ鍋、京都の湯豆腐などなど、全国にはさまざまな鍋がある。名古屋でメジャーな鍋といえば、鶏の味噌鍋だろう。

私が初めて食べたのは、15年ほど前。名古屋を訪れた編集者に連れて行ってもらった『鳥久』だった。店は納屋橋の近くの堀川沿いにあり、江戸時代後期から明治時代にかけて建てられ、多くの文化人も訪れた名店である。

編集者の目当ては『鳥久』の名物「鶏の味噌炊き」。熱が伝わりやすい銅製、それもピカピカに磨き上げた鍋に鶏ガラスープを注ぎ、独自に調合した豆味噌を溶く。鍋に入るのは、鶏のモモ肉やムネ肉、つくね、肝、きんかんなど。煮込むほどに具材は真っ茶色に染まる。が、味噌がしっかりと染みた鶏肉の旨いこと!

鶏肉や野菜をひと通り食べ終わってもまだまだ楽しみが続く。それは、鍋にこびりついた味噌を箸でこそぎ落とし、それをナメながら日本酒をちびりとやるのだ。これを至福のひとときと言わずして、何と言うのだ。〆は名古屋らしく、きしめん。これもタラタラになるまでしっかりと煮込み、味噌をこれでもかというくらいに染み込ませる。そして、これをオン・ザ・ライスで食すのだ。炭水化物×炭水化物じゃないかって?旨けりゃ、それでイイのだ。

『鳥久』に初めて訪れてから、ずいぶんと経った頃、『鳥久』の所有者は経営悪化から閉店を決めた。そして建物を解体して跡地にマンションを建て替えようと市に工事の許可を申請した。ところが、河村たかし名古屋市長がそれに「待った!」をかけた。「歴史的価値の高い建物を壊さずに残してほしい」と、主張したのだった。

所有者と河村市長の対立が続くなかで、'14年11月午前3時半ごろ、『鳥久』から出火、木造2階・地下1階の建物はほぼ全焼した。この火災の原因についてはいまだに不明である。『鳥久』に行ったとき、「鶏の味噌炊き」のあまりの美味しさに写真を一枚も撮影できなかったことが悔やまれる。

f:id:nagoya-meshi:20170101120058j:plain

ただ、名古屋市内にはまだ美味しい「鶏の味噌鍋」を食べさせてくれる店はまだ沢山ある。『鳥久』からほど近い『宮鍵』も私のお気に入りの店の一つだ。「鶏の味噌鍋」(写真)は、「かしわ味噌すき」と呼ばれ、三河赤鶏のモモ肉や砂肝、せせりで作ったつくねなどが入る。

「鶏の味噌鍋」は、どちらかというと家庭料理ではなく、店で食べるものであると私は認識している。ただ、ほかの「なごやめし」に比べて高価な上、鍋料理ゆえに冬のイメージがあるため、まだまだ知名度が低い。この時季に名古屋へ来られることがあれば、是非、「鶏の味噌鍋」で身も心もポッカポカになってほしい。