永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

名古屋エリア限定の「志の田」をご存じか?

少しシリアスな内容が続いたため、ちょっとここらで箸休め(^^;)

私は初めて訪れる店できしめんを食べるなら、「かけ」と決めている。うどんと違って、カマボコや煮揚げ、青菜(ホウレン草など)、花かつおと具材が豪華なのでシンプルな「かけ」でも十分に楽しめるのだ。名古屋人好みに甘辛く煮た油揚げの味付けを堪能したり、店によってはカマボコを飾り切り、とまではいかないにしてもカッコよく包丁が入れてあったりするのを眺めるだけでも楽しい。

通常、名古屋の麺類食堂では「かけ」のきしめんにはたまり醤油の「赤つゆ」、天ぷらや玉子とじには白醤油の「白つゆ」とそれぞれ使い分けている。「赤つゆ」は「かけ」でしか味わえないのだ。まぁ、注文時にあらかじめ伝えれば、大半の店が作ってくれるのだが。逆パターン、つまり「かけ」を「白つゆ」で注文するのはあまり聞いたことがない。ひょっとしたら追加料金が必要になるかもしれない。興味ある方は試していただきたい。

f:id:nagoya-meshi:20170120225359j:plain

なぜ、麺類食堂は「赤つゆ」と「白つゆ」を使い分けているのか、また、「白つゆ」に使う白醤油についてはいずれまた詳しく触れようと思っているが、「白つゆ」で私が好きなのは、「志の田きしめん」(写真)。おそらく、名古屋エリア以外の方は頭の中が「?」だと思う。なぜなら、「志の田」は名古屋エリア限定なのだ。具は、刻んだ揚げとカマボコ、長ネギといたってシンプル。「かけ」では油揚げを甘辛く煮ているが、「志の田」は関西の「きざみうどん」と同様に味付けはせずそのまま。

実は「志の田」という名称など詳しいことはわかっていない。大阪府和泉市北部(旧信田村)には葛の葉狐の伝説があり、油揚げのことを信田(しのだ)、きつねうどんを信田うどんと呼ぶことから、大阪が発祥、もしくは何かしらの関係があるという説がある。ほかにはシノダさんという人が作ったなんて説もある。しかし、いずれも根拠がない。きしめんのルーツと同じで、大衆文化とはそういうものかもしれない。名古屋エリア限定でこのようなメニューが今もなお残っていることがすばらしいではないか。

 写真は東区泉の『角丸』の「志の田きしめん」。私はイイ意味でゲスい味の「赤つゆ」こそきしめんだ!と思っていたが、これを食べてから考え方がガラリと変わった。同じムロアジがベースのだしを使っているにもかかわらず、白醤油にしただけでこんなにも上品な味わいになるのだ。

それに、白醤油はたまり醤油と違って野菜などを煮込んでも色が染まらないため、ネギやかまぼこ、油揚げの彩りもよい。白醤油は京都の老舗料亭も吸い物や炊き合わせに用いるほど高級な調味料なのだ。それを惜しげもなく、きしめんのつゆにダバダバ使う麺類食堂はなんと太っ腹!いやぁ、実にきしめんは奥が深い。