今でこそ私は写真を生業としているが、30年前、写真専門学校に通っていた頃の私は決して出来の良い学生ではなかった。
写真を撮る授業は好きだったが、座学は大の苦手だった。とくに自分が撮影した写真にキャプションを入れる授業が大嫌いで、1、2回授業に出ただけでずっとサボっていた。
「文章なんかに頼らず、たった1枚の写真で何かを伝えるのが写真家だろ!」と思っていた。そんな私が今、ライターとしても仕事をしているから人生は不思議でならない(笑)。若気の至りというか、とにかくトンガっていたのである。いや、小僧が背伸びしてただけだな。
余談だが、15年ほど前に母校で非常勤講師をしていたことがある。私が担当していた授業は「ジャーナリズム演習」。撮影した写真に説明文を入れたり、文章を書いたり……。そう、学生時代の私がサボリたおしていた授業だ(笑)。
それを学生たちに教えなければならないのである。自分のカメラマン、ライターとして体験だけではとても無理なので、本屋で参考になるものがあれば片っ端から買って読んだ。これも授業をサボったツケである。
また、写真専門学校では、「写真論」、すなわち「写真とは?」や「なぜ撮るのか?」を自分の中で確立させることを求められた。19、20歳の小僧にとってはチンプンカンプンだったが、たった1つだけ、心に響いた恩師の言葉があった。それは、
「撮りたいと思った瞬間からが写真である」ということ。
例えば、大好きな場所があって、それをどうしても撮りたいと思う。すると、その場所へ行くには何時の電車に乗ればよいのかとか、どんな機材を用意すればよいのかを考える。そして、大好きな場所を妄想してワクワクする。この時点で写真と向かい合っているのである。わかるかなぁ(笑)。
撮りたいと思った瞬間からが写真である───。50歳を目の前に、もう一度、真剣に写真を撮ろうと決めた私の心に今もなお響いている。