永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

あんかけスパ界のエヴァンジェリスト。

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名古屋商工会議所の会報誌『那古野』で、「那古野三ツ星グルメ」という連載ページを担当させていただいている。これは、名古屋商工会議所の会員になっている飲食店を紹介するというもので、連載が始まってかれこれ10年になる。

www.nagoya-cci.or.jp

先日、『那古野』の取材で、あんかけスパの『スパゲティハウス チャオ』へ行ってきた。客としては、それこそ数え切れないほど足を運んでいるが、取材は初めて。あんかけスパの取材はどうしても老舗の『ヨコイ』や『そーれ』になってしまうのだ。

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『チャオ』の創業は1979(昭和54)年。1号店がオープンしたのが名古屋駅前の第5堀内ビル。実はここ、高校時代につき合っていた彼女と一緒に行ったことがある(照)。しかも、それが私のあんかけスパ初体験だったのだ。

それを取材に立ち会っていただいた森田慶一社長に話すと、

「あー、そういうお話はよく聞きます(笑)」とのことだった。ひと昔前、あんかけスパの店は中年のサラリーマンのパラダイスだった。しかし、『チャオ』はデートに使えるあんかけスパ店だったのだ。もちろん、それは『チャオ』が女性客をターゲットにしていたからにほかならないが、そこに辿り着いたのは理由がある。

『チャオ』はあんかけスパの有名店『ヨコイ』や『そーれ』で修業をした人がオープンさせたのではない。もともと製造業を営んでいて、飲食事業を立ち上げる際に先代社長の好物だったあんかけスパに着目したのだった。とはいえ、料理に関しては全くの素人。調理学校の先生とともに試行錯誤を重ねてソースを完成させた。

「その調理学校に通う女子生徒さんに試食をしてもらったんです。ところが、『辛すぎる』という声が多く、不評でした。そこで他店よりも辛さを抑えて、女性やお子様でも食べられるマイルドな味に仕上げました」(森田社長)とか。

つまり、開業する前から女性の声に耳を傾けてきたのだ。少し前になるが、私は名古屋めしを「名古屋市及びその周辺地域における先人たちの知恵と、飽くなき探究心と独自性、さらには地元の人々の寛容性によって、生まれた料理である」と、名古屋めしを定義づけしたことがある。

寛容性があるのは、店を訪れる客だけではない。客の意見を受け容れる店側にもある。だからこそ、女性でも食べられるマイルドな味わいのあんかけスパを完成させることができたのだ。

「女性のお客様に限らず、提供までの時間や料理の温度などもお客様のご要望に応えてまいりました。これからもその姿勢は変わりません」と、森田社長は語った。

『スパゲティハウス チャオ』は、イオンやアピタなどのショッピングセンターのフードコートにも出店している。マクドナルドや丸亀製麺などのファストフードに比べて提供するまでに少し時間がかかるものの、フードコートであんかけスパが食べられるのは画期的だと思った。

これはあんかけスパが地元でより身近な食べ物になったことも意味する。いわば、『スパゲティハウス チャオ』は、あんかけスパ界のエヴァンジェリストなのである。