永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

恥。その2

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長年、名古屋めしを取材していることもあり、テレビ局からたびたび出演のオファーがくる。ある日、『ルックルックこんにちは』局の制作会社からかかってきた電話もその類いだと思っていた。

「味噌煮込みについてコメントをいただきたいのですが」とのこと。そんなのはお安い御用だ。取材する店での収録なのか、それとも仕事場まで来てくれるのか。それを聞いたところ、

「店の前で、店から出てきた客のテイでお願いしたいんです」と、制作会社。客のテイって……。頭の中が?マークだらけになったが、どうやら名古屋めしの専門家ではなく、店に来ていた客として出演してほしいということだった。

それならば、私なんぞに声をかけなくても、店の前で待機していて、出てきた客にインタビューすればよいだけのことだ。それを伝えると、

「声をかけても断られるケースもありますし、ロケをスムーズに進めるためにやっている」と。この人は今、自分がやろうとしていることをわかっているのだろうか。「仕込み」であり、ヤラセと受け止められても仕方がないことなのだ。スムーズに進めるか否かはテメエの都合じゃねぇか。

フードライターとして、というよりは「イチ愛知県民」として、ヤラセの片棒を担ぐワケにはいかない。私はそのオファーを断ったのは言うまでもない。もう、どの番組かはおわかりいただけるかと思う。

一方、最近仕事で某局の制作部の方と話す機会があった。その方は、東京のキー局へ1年間出向していたそうで、ドキュメンタリー番組を担当していた。そのとき、北関東の大型家電量販店の出店ラッシュを追いかけていたという。

「ヤマダ電機が出店する場所の近所に住む人で、テレビを買い換えたいと思っている人を一軒一軒、訪ねて探したスタッフがいたんです。それだけで2日間もかかったと聞きました」とか。

たしかに、そのドキュメンタリー番組は見ていても説得力がある。バックグランドにはスタッフの地道な作業があるのは間違いないだろう。そんな姿勢にメディアは違えど、学ぶべきことが沢山あると思った。

「伝える」ということは本当に難しい。伝わるか否かは番組や記事の作り手側の「伝えたい」という思いの大きさに比例すると思う。そこには報道だからとか、バラエティーだからとかは一切関係ない。

『ルックルックこんにちは』局の制作会社も何らかの事情はあるだろうが、その体質をあらためない限り、テレビ離れはますます加速していくだろう。