永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

お車代。

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7月7日(火)のブログ「取材時の料理の代金。」のアクセス数が伸び続けている。「なぜメディアは料理の代金を払わないのか」と、twitterで問題提起をされた秋田市のカフェ店主「ふわりずむ(@fuwa_rizumu)」さんがリツイートしてくださったおかげである。

「ふわりずむ」さん、ありがとうございました。秋田へ行くことがありましたら、絶対に行きます。美味しいカレーを食べさせてください。もちろん、お金は払います(笑)。

さて、今回もみんなが大好きな(?)お金の話をしようではないか(笑)。30年近く前、編集プロダクションで働いていたときの話である。前にも書いたかもしれないが、編プロでの仕事の6~7割は風俗やキャバクラの取材・撮影だった。地元の名古屋や岐阜だけではなく、大阪や京都、神戸まで行くこともあった。

そこで撮影した写真や取材したデータを『週刊実話』や『週刊大衆』、『週刊アサヒ芸能』など実話系と呼ばれる雑誌に送っていたのだ。当たり前の話だが、週刊誌は毎週〆切がある。それゆえに関西方面には頻繁に足を運んだ。

入社してまだ間もない頃、私は初めて大阪の風俗店を取材した。とはいえ、名古屋や岐阜ではすでに何度も取材していたので、インタビューの内容や撮影もまったく同じ。取材を終えて店長に挨拶をして帰ろうとしたそのとき、「ありがとうございました」とお礼を言われて、封筒を手渡された。

次の現場へ行くために地下鉄の駅へ向かいながら封筒の中身を見ると、なんと、1万円札が3枚入っていた。私は意味が解らず、出張から会社へ戻ったときにその経緯を社長に話した。

「今回は知らなかったから仕方がないけど、今後同じようなことがあったら絶対に受け取ってはいけない。週刊誌の場合、大きな事件や事故があったら、風俗記事は真っ先にカットされるんだ。お金を払ったのに、載っていないとなると大問題になってしまうから」と、社長。

私が受け取った3万円は、風俗業界の悪しき慣習である「お車代」。撮影してくれた感謝の気持ちもあるにはあるが、それよりも「また取材に来てください」というワイロ的な意味合いの方が大きい。つまり、カメラマンを囲って、優先的に掲載してもらえるようにするためだ。

社長の言ったことも納得できるし、昔からそういったシガラミを持つのが大嫌いな私はそれ以降、受け取らなくなった。社長はこんなことも言っていた。

「受け取っていたカメラマンで今、業界に残っているヤツはいない」と。そりゃそうである。例えば、大阪で5軒の店の女の子を撮影したとする。1軒あたり3万円の「お車代」が出たとしたら、計15万円。週イチのペースで撮影に行っていたら、60万円!さらには写真を送った出版社からも原稿料が出る。笑いが止まらないだろう。

しかし、社長の言った通り、90年代に風俗業界で名を馳せたカメラマンはほとんど残っていない。地元名古屋で「先生」と呼ばれていた超有名カメラマンはフィリピンパブの雇われ店長をしていると聞いた。やはり、そんなもんなのである。

実際、「お車代」を喜んで受け取っていたカメラマンもいた。が、「お車代」は、領収書の要らない、いわば裏ガネ。そのカメラマンは、せっせと裏ガネを貯めて、それを原資に事業拡大するため、個人事業だったのを法人化した。それがいけなかった。国税に入られた挙げ句、追徴課税で目玉が飛び出るほどのお金をもって行かれたのである。

そもそも、『週刊実話』や『週刊大衆』、『週刊アサヒ芸能』のカメラマンとして仕事をしているのであって、取材先からお金を貰ってしまったら、雑誌の看板にドロを塗るだけではなく、その店専属のカメラマンになってしまう。

カメラマン・ライターと取材先は対等の関係ーーー。私の中に根強くある、その意識は編プロ時代に養われたものなのである。