東京で喫茶店に入ると、驚きの連続である。まず、おしぼりと水が出ない。そして、コーヒーが500円以上とクソ高い。いちばん違和感をおぼえるのは、コーヒーがシャビシャビな(薄い)こと。おそらく、ストレートでフルーティーな香りや酸味を楽しめるように、浅煎りの豆を使っているのだろうが、私は砂糖もミルクも入れるので、カフェオーレ、ひと昔前でいうところの「ミルクコーヒー」みたいになってしまう。これではコーヒーを飲んだ気にならない。「コーヒーに砂糖やミルクを入れるなんて邪道だ!」と言われればそれまでだが。
名古屋人が好むのは、以前に紹介した『コンパル』のコーヒーのように、ガツンと苦みのある濃いコーヒーといわれる。最近できたカフェは別として、昔からやっている喫茶店だけでなく名古屋を拠点とする喫茶チェーン『コメダ珈琲店』や『支留比亜珈琲』などのコーヒーも濃い。
一方、家庭で飲むコーヒーはどうだろうか。わが家ではずっと、UCC「ゴールドスペシャルブレンド」をペーパードリップで淹れている。リンク先を見ていただければわかるが、「しっかりとしたコク、濃厚な味わい」に特化したブレンドである。喫茶店で飲むコーヒーとまったく遜色ない。ヘタをすると喫茶店よりも旨いかもしれない。
私が幼い頃、わが家にはサイフォンがあった。毎朝、両親はサイフォンでドリップしたコーヒーを飲んでいた。コーヒー豆はスーパーで買い、売り場に設置されていた電動ミルでコーヒー豆を挽いていたのを今でも覚えている。母が淹れたコーヒーに父は
「うっすいわ。もっと濃くないといかん」と、いつも注文を付けていた。つまり、今と違って、ひと昔前は家庭で飲むコーヒーは薄かったのだ。だからこそ、人々は喫茶店に足を運んだと推測できる。コーヒー豆の焙煎業を営む知り合いによると、
「昔、スーパーのコーヒー売り場にあった電動ミルは一定の細かさでしか挽くことができなかったんですよ。だから、どうしても家庭で飲むコーヒーは薄かったんです。砂糖やミルクを入れてもしっかりと味がするコーヒーが名古屋では好まれますね。豆は深煎りで、細かく挽いてあるのが特徴です」とか。また、ある喫茶店のオーナーからは、コーヒー豆を通常よりも多めに入れてドリップしているという話も聞いたことがある。
名古屋の喫茶店のコーヒーが濃いのは、豆味噌を使った料理やあんかけスパなど、もともと濃い味を好むのと、「せっかくお金を払うんだで、濃いのを飲ませてちょ」とのリクエストによって生まれたのだと私は考える。