永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

名古屋でかつ丼といえば…・その1

福井や長野のソースかつ丼や岡山のドミかつ丼、新潟のタレかつ丼など地域によってそれぞれ特徴のあるかつ丼。味噌かつがデフォルトの名古屋では味噌かつ丼が定番!と、言いたいところだが、少数派とまではいかないまでも玉子とじのかつ丼を出す店の方が多いのである。

味噌かつ丼は主にとんかつ店で食べられる。味噌かつは定食で食べる分には美味しく食べられるものの、丼にするとクドく感じて、途中で飽きてしまう。味噌かつの味噌ダレはやや甘めに仕上げてあることが多く、味が単調に感じるのはそのためだろう。ただ、味噌かつ丼をメインに出している店はそのあたりをしっかり研究している。

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写真は栄にある『味処 叶』の「元祖味噌カツ丼」。昭和24年に割烹料理店として開店したが、昼の時間帯に味噌かつ丼を出したところ、人気を呼んで看板メニューになったという。平成24年4月に引退した創業者の杉本利資さんは東京・浅草出身。名古屋といえば味噌、という発想からこのメニューを考案した。

「味噌味のかつ丼があってもいいのではと思って作ったのがきっかけでしたが、昔はかつ丼自体が高嶺の花。大卒初任給が2000円の時代に一杯60円でした。だから開店当時はまったく売れませんでした。定着したのは昭和30年代以降ですかね」とか。

「元祖味噌カツ丼」を出した当初の面白いエピソードも残っている。割烹料理店ゆえに店内にはメニューがなく、客は注文の方法もわからず、杉本さん自身もメニュー名を決めかねていた。客が来店したときに「お味噌のかつ丼でよろしいでしょうか?」とたずねていたことから、客が「お味噌のかつ丼」を略して「味噌かつ丼」と言って注文するようになった。名付け親は客だったのだ。ちなみに店内にメニューが置かれたのは'04年。「元祖味噌カツ丼」が有名になっても割烹料理店としてのプライドを持ち続けていたのだろう。

また、昔は卵が高価だったので当初は卵をのせていなかったという。客の要望で現在の形になったそうだ。東京出身とはいえ、「客の意見に耳を傾ける」という「なごやめし」の発祥にありがちな話もある。

巷の味噌カツ丼は定食と同様に、揚げたてのとんかつの上に味噌ダレをかけたものが一般的である。一方、ここの「元祖味噌カツ丼」は、和風ダシのきいた味噌ダレで煮込んであるのが特徴だ。とんかつは煮込むと衣が剥がれてしまいがちだが、ここのは衣と肉がぴったりとくっついている。味噌ダレで軽く煮込んだ卵は半熟。黄身を潰して絡めて食べるとマイルドな味になる。これが名古屋人に限らず、全国の人々を虜にしているのだ。

名古屋のかつ丼に関しては、まだ紹介し足りない部分もあるので、続きは次回に。(つづく)