永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

リメンバー!なごやめし・1

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先日、ある仕事の打ち合わせで、私よりもやや年下、30代半ばくらいの経営者数人と話す機会があった。ランチなどで日常的に「なごやめし」を食べているのかを聞いてみたところ、ほとんど食べていないという。名古屋駅新幹線地下街『エスカ』など好立地に出店しているような有名店はまだしも、地元の個人経営の店には入ったことすらないというのだ。

やっぱりそうか、と思った。メディアが採り上げる「なごやめし」のブームは、地元で起こっているのではなく、東京をはじめとする県外で起こっているのだ。それは今始まったわけではない。「『なごやめし』とは何か?」でも触れた通り、もともとブームは東京で起こり、逆輸入された形で地元に上陸したのである。ただ単にそれが10年以上経った今でも続いているというわけだ。ヘタをすると、県外から「なごやめし」を目当てに名古屋を訪れる観光客の方が「なごやめし」のことをよく知っているかもしれない。

資本も発信力もある有名店は笑いが止まらないだろうが、笑い事ではないのは、個人経営の店である。昔も今もブームの恩恵をほとんど受けていないのだから。しかも、観光客だけではなく、地元の若い世代も足を運ばないとなると、店主に子どもがいても後を継がせることはないだろう。店は現店主の代限りとなる。これは文化の喪失ともいうべき由々しき事態である。

実際、「なごやめし」を出す店の客層は総じて高い。きしめん味噌煮込みうどんを出す麺類食堂は60代~70代がメインである。一見、若者が好みそうな、あんかけスパの店でもコアな層は40代~50代。某あんかけスパ専門店の店主は、

「20代のお客さんは、社会人になって上司に連れて来られて初めて食べたという方が多いです。つまり、それまであんかけスパを一度も食べたことがないということです」と、残念そうに話した。

私は'02年頃からフードライターとして、主に個人経営の店を中心に取材してきた。彼らが客を喜ばせんがためにどれだけ味にこだわり、それを日々追求しているか。そして、彼らが当たり前だと思って毎日やっていることがいかに大変なことであるか。私も少しはわかっているつもりである。あまり多くを語らない彼らに代わって、世の中に発信することがフードライターとしての私の使命だと思っていた。

具体的に言えば、県外から彼らの店へ食べに来ていただきたいと。一昨年あたりから、若い世代の「なごやめし」離れを耳にするようになり、地元での消費なくして県外への発信はあり得ないと思いはじめた。郷土料理は地元で長く食べられてきたからこそ存在意義があるのだ。

地元の人々に、もっと「なごやめし」を食べてもらうにはどうすればよいのか。私のような木っ端ライターではやれることに限りがあるし、どうせなら楽しくやりたい。ちょうどその頃、私はフードライターとして「なごやめしを食べながら名古屋の街づくりについて考える会」なる集まりの運営メンバーになっていた。(つづく)