永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

横井孝至さん。

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東区芳野3丁目にある『味処 よこゐ』の店主、横井孝至さんとは2012年に『おとなの週末』の取材で出会った。

当時、私は「名古屋の旨い店“究極”ランキング」という連載ページを持っていた。これは和食やフレンチ、イタリアンなど月ごとに決められた料理を食べ歩き、ランキング付けするという企画。

当時、食べ歩いた店をランキングしていたブロガーが注目を集めていて、地元情報誌が「グルメブロガーに聞くオススメ店」という特集が組まれるほどだった。

リサーチ力も情報量もブロガーよりも情報誌に出入りしているプロのライターの方がどう考えても上なのである。にもかかわらず、ブロガーを持ち上げるのは、ネットに対する紙媒体の敗北宣言だと思った。そんな気持ちを企画書に綴り、実現したのが「名古屋の旨い店“究極”ランキング」だった。

その記念すべき連載第一回目の記事の一部をここに載せる。

 

グルメブログは信用できるか?

早いもので本誌で覆面取材を始めて9年が経った。月の大半は外食となり、体重は20キロも増えた。覆面取材で感じたことをありのままに書いたことで、編集部へ抗議の手紙が届いたり、出入り禁止となった店も少なくはない。実名を公表しての覆面取材は常にリスクを伴っているのだ。

ところが、グルメブロガーはどうか。匿名ゆえの安全地帯から好き勝手にモノを言い、その評価如何で人気店にもなるし、その逆も然り。仮に、店から無償で飲み食いさせるなど、何らかの“報酬”があったとしたら…。大手グルメランキングサイトのやらせ投稿問題と同様にその評価はアテにならない。にもかかわらず、メディアもブロガーの情報を頼りにする愚行。私の地元、名古屋では有名グルメブロガーがグルメ本まで出版している。

この9年間で私が訪れた店は3000軒以上。名古屋の旨い店なら誰よりも知っていると自負している。この連載では私、永谷正樹が絶対の自信を持って勧められる店を毎号順位が変動するランキング形式で紹介する。(後略)

 

と、かなり過激な連載だった。しかし、2年間続いた中でただの一度も文句を言われたこともなければ、抗議を受けたこともなかった。これは実名を晒して正々堂々と書いていたからだと今でも思っている。

さて、横井さんの話に戻そう。当時は守山区に横井さんの店があり、和食部門と総合ランキングで不動の1位だったのである。料理が本当に旨かった。とくに感動したのは、一品ごとに味付けの濃淡や温冷などの抑揚がつけてあること。それはまるで音楽のように序奏から主要部へと導かれるようだった。

また、料理を提供する順番にも細やかな配慮があった。通常、コースの前半に出される八寸が横井さんの店では後半。コース前半に空腹を満たし、後半に八寸を肴にじっくりとお酒を堪能できるのである。

あれからずいぶんと時間が経ってしまったが、先日、横井さんが2年前に開店させた『味処 よこゐ』へ行ってきた。

味処 よこゐ
〒461-0027 愛知県名古屋市東区芳野3-2-21
10,000円(平均)

r.gnavi.co.jp

以下の写真はコースの一部である。

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どの料理もやっぱり、旨い。味と温度の抑揚や提供する順番もきちんと配慮されていた。おかげでとても心地のよう時間を過ごすことができた。

が、変わったと思った部分もあった。もちろん、良い意味で。何というのか、以前は「攻め」の姿勢というか、ギラギラ感があった。うまく言えないけど。しかし、今は明らかに違う。成熟したというか、心にジーンと染みた。ブログで何度も表現している、心が豊かになる味だったのだ。横井さんは私と同い年。料理人として、これから益々腕を磨いていくだろう。

それにひきかえ私は……。まーったく成長していない。カメラマンとしても、ライターとしても、人としても。まだまだ甘いんだな。自分に。もっと、もっと、追い込まねば、残りの人生を変えることなんて不可能だ。頑張らなくちゃ。

横井さん、先日はありがとうございました。とても刺激になりました。また食べに行きますね。