永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

取材時の料理の代金。

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「なぜメディアは料理の代金を払わないのか」

秋田市のカフェ店主がtwitterに投稿し、反響を呼んだことはまだ記憶に新しい。雑誌とウェブメディアの仕事をしている私としては、見過ごすことはできない。

結論から言うと、支払うのが当たり前である。私は『おとなの週末』の初代担当編集のアサイ師匠からそう教わったし、その通りだと思っている。理由は2つ。

1つは、取材・撮影のためとはいえ、客に出すものとまったく同じ料理を作っていただくわけである。その対価を支払うのは当たり前だ。取材するライターがその料理を食べるか食べないかはいっさい関係ない。

twitterのコメントに、

「テレビや新聞は取材させてもらってる意識が強く、雑誌等は宣伝してやってる意識が強いからだと思います」

というものがあった。私はただの一度も「宣伝してやっている」と思ったことがない。飲食店を取材する時間帯は、ランチが終わってからディナーが始まるまでのアイドルタイム。本来であれば、休憩をとったり仕込みをしたりする時間である。それをわざわざ取材のために空けていただくのだ。これは本当に感謝しかない。その気持ちを表すためにも代金は支払うのが当たり前なのである。

もう1つは、取材する側とされる側の間に、貸し・借りの関係を作ってはならないから。これもグルメ取材を始めたばかりの頃にアサイ師匠から口を酸っぱくして言われた。

代金を支払わなければ、それが負い目となり、提灯記事を書く結果となる。が、取材する側とされる側が対等の立場であれば、自分の思ったことを、ありのまま書くことができる。たとえ辛口の表現になっても、代金を払っている以上、お店側も文句を言いにくい。まぁ、美味しいと思った店を取材するのだから、悪口を書くことはないが。

以上の理由から、取材時に用意していただいた料理の代金は支払うのが当たり前だと私は考える。とはいえ、例外もある。これも2つ。

1つは、代金を支払うと申し出たときに「要らない」と言われたとき。ただ、料理の代金は、ライター個人が支払うものだと思っていて、遠慮して「要らない」とおっしゃる方も多い。「会社に経費として請求しますから」と言うと、だいたい受け取ってもらえるが、それでも「要らない」と言われたら、厚意に甘えさせていただく。

もう1つ。ウェブメディアの大半は経費が出ない。ガソリン代も駐車場代もすべてギャラの中に含まれている。そのギャラが高額であれば何の問題もないが(笑)、高速道路を使わず、下道で現場に向かっても、都心の高いコインパーキングに駐車したら、残るのは、まさにスズメの涙ほどのギャラ。その中から料理の代金まで支払うと、赤字になってしまうのだ。

その場合、取材のアポを取る際に、あらかじめ経費が出ないため、料理の代金を支払うことができない旨を伝える。さらに、その代わり、取材時に撮影した写真を提供することも話す。何なら、撮ってほしい料理があれば、それもご用意ください、と。だいたいのお店は、その条件を飲んでくれる。と、いうか、「その方がありがたい」と大変喜んでくれる。

同業者からすれば、バカなことをしていると思われるかもしれない。でも、私が撮った写真をメニューブックやPOP、SNSで使っていただき、どんどん繁栄すればよいのだ。その儲けたお金で私にメニュー撮影のオファーを出すかもしれない(笑)。遠回りだが、それでよいのだ。