永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

宝物の一枚。

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誰もがスマホを持つようになり、スマホで撮影するようになった。専門的な知識が必要なくなったので、撮影することのハードルがグンと下がった。

また、アプリで簡単に加工できるようになり、プロの私が見ても「スゴイ!」と思う写真を素人さんがSNSにアップしている。

さらには、昨日今日、デジタル一眼で写真をはじめたばかりの人がカメラマンを名乗り、格安で撮影の仕事をしている。SNS上にも「写真で稼ぐ方法」の広告がガンガンに表示される。

「縄張り荒らしだ!」と、そんなことを言いたいのではない。この流れは誰も止められないのだ。嘆かわしいのは、写真そのものの価値が下がってしまったこと。

「おかげで写真で食えなくなった」と、そんなことを言いたいのでもない。キレイとか、カワイイとか、万人受けする写真が氾濫しすぎている。

私は形容詞で表すことができるような写真に1ミリも価値も感じない。かなり辛口になるが、「♡」や「♪」、「!」などの記号にしか思えないのだ。

昨日、こんなことがあった。取材相手から取材(撮影)の場所の指定があり、行ってみるとそこは丘の上に立つカフェ?サロン?だった。取材が終わって帰ろうとしたとき、そこのオーナーから、店にいるご夫婦を撮影してほしいと頼まれた。

聞いてみると、ご主人か奥様のどちらかが末期癌で、医者から余命宣告を受けているという。今のところは店に来られるほど元気に過ごされているそうで、その姿を写真に納めてほしいとのことだった。私なんぞの写真でお役に立てるのならと思い、オーナーの申し出を快諾した。

ご夫婦にカメラを向けると、やはり緊張されているのか、こわばった表情でこちらを見つめている。

「せっかく撮るんならニッコリしましょう!ハイ、満面の笑みで!もっと!もっと!そう!そう!スマイルーッ!」と、私は明るく声を掛けた。

すると、さっきまで緊張の面持ちだったご主人の目尻が下がり、しかも、手はVサイン(笑)。それが私のツボにハマって、皆で大笑いしながら撮影をした。とても楽しいひとときだった。

取材相手と、サロンのオーナーのそれぞれから丁寧にお礼のメールをいただいた。ご夫婦はプロのカメラマンに撮影してもらえたことを大変喜んでらっしゃったらしい。今日撮影した写真は、ご夫婦にとって宝物の一枚になると思う。

写真館のカメラマンは、家族にとって宝物の一枚を撮るのが仕事である。私にできるとしたら、その現場にいる人を、その人の生きざまが伝わるような1枚を撮ること。そして、もう一つ。「メイク&フォト」イベントに足を運んでくださった方の、日常の美を引出して撮影することだ。

トップに使った写真は、「バー応援企画」として取材した錦3丁目『BOOK & BAR SPIN』のマスター、伊藤尚哉さん。とても喜んでいただき、Facebookのプロフィール写真にもしてくださった。