永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

「旨い」とは何だろう。

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世の中には旨いものが沢山ある。例えば、ミシュランの星付き店だったり、1日1組限定や会員制のレストラン。最高の食材を最高の技術を持った料理人が最高のシチュエーションで食べさせてくれる。

料理人の、食材の目利きや調理の技術、ホスピタリティ溢れる空間をつくるセンス等々、私は彼らを誰よりもリスペクトしている。店に足を運ぶ客も、そんな彼らの料理にかける情熱や理念に触れるためであろう。

しかし、「旨い」とは何だろう。生産者が愛情を込めて育てたブランド牛や天然ものの魚介、無農薬にこだわった野菜などをふんだんに使い、食材そのものの旨みを引き出した料理はもちろん旨い。

その反面、思いっきり身体に悪そうな、化学調味料をガンガンに使ったラーメンも旨いっちゃぁ、旨い。

「一緒にすんな!」と両方の料理人から叱られそうだが、いずれも「食べもの」である点では同じだ。カメラマンだって、広告や報道、写真館などジャンルは違えど、「写真」を撮っていることは共通している。

あ、断っておくが、高級レストランのシェフがラーメン店の大将よりも優れているとか、劣っているとか、そういう類の話ではないので誤解のないように。

また、めちゃくちゃ美味しいのかというと、そうでもない。決して個性的な、唯一無二の味ではなく、普通に美味しい。でも、週に1回は食べたくなるものもある。例えば、町中華のラーメンやチャーハンだったり。

一方、高級レストランの料理を毎週食べるのはキツイ。そうでない人もいるかもしれないが、私はそう思う。毎週食べたくなるような料理を出す店というのは、本当にスゴイことだと思う。

さらに、高級食材を使っているわけでもなく、めちゃくちゃ美味しいものを出しているわけでもなく、特別に雰囲気やサービスがよいわけでもない。にもかかわらず、いつ行っても満席。食べ終わって店の外へ出ると「あー、美味しかった!」と、思わず言ってしまう。何なんだ、それは。

分析すれば、いろんな要因はあると思う。が、いくらそれを真似たとて、できるとは限らない。そこから見えてくるのは、旨い店=イイ店ではないということ。

私は20年近くグルメ取材をしてきたが、味だけでは語れない、そんな無条件で人々に愛されるような店の魅力に迫りたい。そして、それを言語化して伝えたい。フードライターとしての、残りの人生はそこにあるのではないかと思えてきた。

※写真は、錦3丁目『肉料理 まつざか』の「炭焼定食」。ここもまた、半世紀以上にわたって人々に愛されている店である。