永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

マーケティングは重要だが、すべてではない。

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ごめんなさい。今日のブログは、チャー1グランプリのノミネートチャーハンの続きを予定していましたが、どうしても書きたくなったことがあるので、また次回に。

この前の日曜日、ある店のオーナーと会った。そのときに興味深い話を聞いたのだ。

彼は、店を開店させる前、宣伝やPRの仕事をしていて、その蓄積されたノウハウ、要するに徹底したマーケティングに基づいて飲食店をオープンさせたという。業種は当時、ブームだったバル。

オープンして1年目はオーナーの目論見通り、売り上げは順調に伸びていった。何しろ、マーケティングは完璧なのだ。

一方、他の飲食店関係者からすれば、成功事例が目の前にあるのである。彼の一人勝ちを黙って見ているはずがない。店の周辺に似たような業態の店が雨後のタケノコのごとくオープンするのは時間の問題だった。

2年目で徐々に売り上げが落ちていき、3年目にはとうとう店を閉めてしまった。彼はこの失敗を通じて、いくらマーケティングを完璧にしても、人気店にはならないことを学んだのである。

「マーケティングに基づいてオープンさせた店は、70〜80点くらいなら取れます。でも、それ以上は難しいと思います」と、彼。

今、飲食店のオープンや商品の開発はマーケティングが重視される。とくに広告やPRの業界にいれば、それがすべてかもしれない。たしかにマーケティングは重要だが、すべてではない。

それは「インスタ映え」するメニューをウリにしている店も同様。それを目当てに客は店に来る。しかし、それでは70〜80点。いや、もっと低い点数かもしれない。

なぜなら、「インスタ映え」きっかけで来店した客がその後2回、3回と店に来るケースが低いからだ。では、80点以上の点数を取るにはどうすればよいのだろうか。

私は「物語」が必要だと考える。なぜ、その店を開いたのか、とか、なぜ、そのメニューが完成したのか、というストーリーが。

喜びや楽しさ、その逆の悲しみや苦悩。そんなリアルな体験こそが「物語」を作り上げる。とくに喜びや楽しさの部分は、必ず客に伝わる。その背後に大変な苦労があったことも。やはり、料理は人なのである。

フードライターの私にできるのは、料理人の、オーナーの「物語」を聞き、それを文章化して読者に伝えることではないだろうか。あらためてそう思った。