永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

名古屋めし。5(新編)

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写真は、このブログでもたびたび紹介してきた『長命うどん』の「う中」である。その名前からもわかるように、丼の中にうどんと中華そばが入っている。

ざるそばとざるうどんが盛られている「合盛り」はときどき見かける。また、富山県高岡市にはうどんとそばが同時に楽しめる「チャンポン」なるメニューもある。『長命うどん』で言うところの「うそ」である。

「合盛り」も「チャンポン」も想定の範囲内というか、「う中」のインパクトと比べるとはるかに弱い。っていうか、「う中」がカオスすぎるのだ。このカオスっぷりこそ、名古屋の食文化だと思う。

そもそも、名古屋の食とは「組み合わせの妙」である。とんかつに味噌を合わせるなんて暴挙は誰が考えよう。でも、ヤッてしまった(笑)。実際、「名古屋めし」というコトバが生まれる前、味噌かつや味噌煮込みうどんはゲテモノ扱いされていた。「2ちゃんねる」に「名古屋=ゲテモノ喰い」と書かれていたのを私は決して忘れない。

それにしても、なぜヤッてしまったのか。いや、なぜこんなカオスなメニューが名古屋で生まれるのだろうか。

これは私の推測だが、名古屋はガラパゴスなのである。昔は江戸と京都を結ぶ東海道で人や物とともに文化も行き来していた。ところが、東海道が通っているのは名古屋の南部。中心地である名古屋城までそこそこの距離がある。ゆえに独自の文化を形成、つまり、ガラパゴス化していったのだ。

それは昔だけではなく、今も。なぜなら、私のように、生まれてから一度も名古屋を離れたことがない人が異常に多いのである。今でこそネットが普及していて、あらゆる情報をすぐに入手できる。しかし、その前はやはりガラパゴスだったのである。

「名古屋めし」というコトバが広まり、味噌かつや味噌煮込みうどんがディスられなくなったのは、万博開催とネットの力が大きい。「名古屋めし」がディスられなくなったら、名古屋出身であることをわざわざ公表しなかった芸能人がカミングアウト(?)したケースもあった。

名古屋はダサかったのだ。いや、今も私はカッコイイとは思っていない。でも、ひたむきに美味しい味噌かつを、美味しい味噌煮込みうどんを作り続ける人はカッコイイ。そのカッコよさは、名古屋とはまったく関係ない。地域を飛び越える全国クラスのカッコ良さだ。

ガラパゴスと聞くと、どうしてもネガティブなイメージを抱いてしまう。が、そうではない。ガラパゴスゆえに豊かな文化が醸成されたのだ。それを私は誇りに思っているし、「名古屋めし」は名古屋の食文化を表すコトバではない。ただ単に名古屋の名物をひと括りにしただけだ。私は今、名古屋の食文化を簡潔に表すコトバを考えている。