永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

文化とブーム。

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久しぶりに佐藤さんが作るラーメンを食べた。名古屋・丸の内にある『濃厚中華そば 佐とう』の「チャーシュー中華そば」のことだ。

このメニューのスゴさは、何もチャーシューの量だけではない。味のベースにたまり醤油を使っているという点だ。ひょっとしたら、名古屋グルメの歴史に名を残すメニューになるかもしれないと思っている。

たまり醤油は、名古屋エリアではメジャーな調味料である。しかし、きしめんやうどんのつゆや煮魚、うなぎのタレなど昔から地元で食べられてきた料理に用いるのが常だった。

これまでたまり醤油を隠し味に使ったラーメンはあったかもしれない。しかし、メインの味つけに使ったラーメンは、私の知る限り、ここが初めてだと思う。

小手先だけのアレンジをくわえただけで「新・名古屋めし」を名乗る店もある。そう、カテゴライズされれば、メディアも注目するだろう。そうなれば、売り上げも伸びる。そんな思惑が見え隠れする。私もこれまで「新・名古屋めし」をあらゆるメディアでガンガン紹介してきた。

ところが、佐藤さんの場合は違う。実際、メニューのレシピを考案したのは、佐藤さんの師匠にあたる愛知県岡崎市の『つけめん舎 一輝』の店主、杉浦正崇さんだが、彼は何もメディアのウケを狙ったわけではない。

弟子である佐藤さんが店を出す際に、ラーメンの味が二転三転して、どうしようかと悩んでいたところ、身近にあったたまり醤油にたどり着いたのだ。佐藤さんもまた、たまり醤油を使っていることはPRしているかもしれないが、自分の作ったラーメンを「名古屋のご当地ラーメン」とは決して言わない。

文化というものは、狙って作るものではない。狙って作るのはブームであり、意図せず、自然発生的に生まれ、継承されていくのが文化なのだ。