永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

ひきずり鍋。

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写真は、愛知県西尾張地方の郷土料理、ひきずり鍋である。早い話が、鶏肉を使ったすき焼きだ。ったく、愛知県民はどれだけ鶏肉が好きなんだってぇの(笑)。

ひきずり鍋という名前の由来は、そぎ切りした鶏肉を鉄鍋の中でひきずるようにして焼いて食べたという説などさまざまあるらしい。

この名前から、「過去を引きずらないように」との願いを込めて、よく大晦日やお祭り、お祝い事があると食べていたという。いわば、縁起物だったわけである。

縁起物が大好きな(?)愛知県民だが、実はこのひきずり鍋はあまり知られていない。それには理由がある。

ひきずり鍋は、戦前から昭和の高度経済成長期頃まで食べられていた。しかし、時代とともに牛肉が普及してくると、その座を取って代わられたのだ。それがいちばん大きな理由だろう。

もう一つ、面白い理由がある。

戦中や戦後の貧しかった時代においては、鶏肉といえども高級品であったのは間違いない。前にも書いたが、大晦日やお祭り、お祝い事のときにしか食べられなかったのである。

で、「今日はひきずり鍋を食べよう!」という日に、家の庭先で飼っていたニワトリをしめて、羽をむしって、バラバラに解体するのだ。

それを目の当たりにした子供の中には、それをきっかけに鶏肉が嫌いになる人もいて、大人になってからも家でひきずり鍋を作ることもなくなったのである。

当時の子供というのが、ちょうど私(50代〜60代前半)の親世代にあたり、食文化がここで断絶してしまったのだ。

しかし、約40年の時を経て、平成の半ば頃から鶏料理店でひきずり鍋を見かけるようになった。しかも、庭先で飼っていたような「ヒネ」ではなく、名古屋コーチンや三河鶏を使って。

味のベースは、もちろんたまり醤油。地のものに地の調味料。いわばテッパンの組み合わせであり、こんなの美味しいに決まっている。

牛肉のすき焼きも旨いが、鶏肉もなかなかのもの。機会があれば、是非食べてみてほしい。

 

※写真は、名古屋・金山『名古屋コーチン・旬菜 一鳳』の「名古屋コーチン すき焼き」。かなり、旨いです♪