永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

公助。

幼い頃、難民キャンプで暮らす子供のドキュメンタリーをテレビで見た。それがアジアだったのかアフリカだったのかよく覚えていないが、画面に映し出された、食べるものがなく、骨と皮だけになった子供の姿にショックを受けた。一緒に見ていた父に

「どうしてこんなことになったの?」とたずねた。

難民となったのは、戦争や内戦、クーデターから逃れてのことだろうし、ひいてはアメリカやソ連が後ろから糸を引いていたことも今は理解ができる。が、当時の私に世界情勢を説明したところでわかるはずがない。父はたったひと言だけ

「政治が悪いんだよ」と呟いた。実に的確な答えだったと思う。

時は流れて、北朝鮮の拉致被害者が帰国した2002年。私は写真週刊誌の仕事で記者とともにある地方都市で事業を営む経営者に直撃取材を敢行した。

その経営者は朝鮮総連の元幹部。日本人の拉致をはじめとする北朝鮮の非合法活動について知っているかもしれないという噂があり、直撃しようということになったのだ。

私たちの来訪に驚きもせず、社長室に入れてくれた。記者が取材の趣旨を説明すると、撮影及び録音をしないことと、身元を明かさないという条件でインタビューに応じてくれた。

そこで日本人が拉致された1970年代から80年代に朝鮮総連の中に非合法活動を行うセクションがあったことを認めた。つまり、日本人拉致には朝鮮総連も深くかかわっていたのだ。

ただ、それは当時すでにメディアで報じられていたため、やはりそうだったのかとしか思わなかった。それよりも衝撃だったのは、

「今の金正日体制について、どう思っていますか?」という記者の質問に対する回答だった。私は今でもハッキリと覚えている。

「国民を飢えさせているという時点でアウトでしょ。私にも社員がいます。彼らと彼らの家族が食べていけないということになると、経営者として失格となる。それと同じですよ」と経営者は哀しそうに語った。

さらに時は流れて2022年。わが国の子どもの貧困率はどんどん上がり、今や7人に1人が貧困状態にあるといわれている。

父の言葉を借りると「政治が悪い」ということであろう。また、経営者に言わせれば「国民を飢えさせている時点でアウト」ということになる。

貧困問題は昔からあったのは間違いない。私が子供だった頃にも学校やクラスに貧困児童はいた。でも、「自己責任」という言葉はなかった。SNSで見ず知らずの人から「甘えている」、「努力が足りない」、「頑張れば何とかなる」という心無い言葉を投げかけられることも。

今、この国に必要なのは、自助でもなければ共助でもない。公助だ。いったい、何人の政治家がそれをわかっているのだろうか。