
1990年代、編集プロダクションで働いていた頃、仕事の半分、いや、それ以上はファッションヘルスやソープランド、キャバクラなど風俗店の取材だった。
今思えば信じられない話だが、当時の名古屋は条例が緩く、風営法に抵触しなければ新規参入が可能だった。新しい店は雨後の筍のように乱立し、最盛期には200軒を超えていたらしい。
風俗嬢とアイドルをかけ合わせた“フードル”という造語まで生まれ、名古屋の風俗嬢が情報誌のグラビアを飾ることも珍しくなかった。
東京から来た編集者は皆、ある点に驚いていた。オフィス街のすぐ近くに風俗店が並んでいることだ。
「もし東京なら住民運動が起きますよ。名古屋では反対はないんですか?」
そう聞かれたことがある。
オフィス街は昼こそ人であふれるが、住民は少なく、夜や週末はゴーストタウンになる。だから反対運動も起こらない。要するに「自分の家の近くは嫌だが、職場の近くなら構わない」という感覚なのだ。
もともと名古屋人は、私も含めて地元意識が薄いと言われる。大阪では阪神、福岡ではソフトバンク、札幌では日ハムの帽子をかぶった人をよく見かけるが、名古屋でドラゴンズの帽子は驚くほど少ない。それだけでも土地への帰属意識の違いがわかる。
なぜこんな話を書くのか。
今日2月12日、愛知県の大村秀章知事が、中部国際空港とその周辺へのカジノを含む統合型リゾート(IR)の誘致を検討していると明らかにしたからだ。
理由は「IR整備によって国際観光都市を実現し、県経済を活性化させ、若年層の東京流出を防ぐため」だという。
しかし、若年層の東京流出は他都市と比べれば決して多くない。愛知県には自動車産業をはじめとする製造業があり、就職先は豊富だ。大学や専門学校も多く、高校卒業後に地元へ残る若者は少なくない。
それでもカジノで雇用を生もうという発想は、率直に言って短絡的だ。少なくとも私は、自分の息子たちにカジノ関連の仕事を勧めたいとは思わない。たとえ待遇が良くてもだ。
「国際観光都市」という言葉は響きがいいが、要するにバクチで外貨を稼ぐということだ。それが日本という国の進むべき方向なのか、私は疑問に思う。
もし投資するなら、その資金を製造業や最先端技術の研究をしている大学への支援に回すべきだ。その方が10年、20年先の愛知県の未来は、はるかに明るいはずだ。
常滑沖にカジノができ、ギャンブル依存症や治安悪化といった問題が起きても、その頃には責任を取るべき政治家はいない。問題が表面化する頃には任期を終えているからだ。
だからこそ、今ここで考える必要がある。地元意識が薄いと言われる名古屋人、愛知県民であっても、未来の街の姿だけは無関心でいてはいけない。
カジノ誘致の是非は、他人事ではない。これは、この土地で生きる私たち自身の問題なのだ。