永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

外食産業が「幅広きしめん」を採用!と、喜んだのも束の間

栄や名駅など名古屋の都心での取材時に次の仕事までの時間を潰すために千種イオンを利用する。入庫から2時間無料の駐車場があるからだ。先日、ちょうどお昼時だったので、ランチを摂ることにした。

選んだのが2Fのフードコート内にある『まこと本舗&千種亭 千種店』。以前、ここへ行ったとき、「幅広きしめん」をウリにしていたのである。「幅広きしめん」は5,6年ほど前からきしめん好きの間でブームになっていて、フードコートに出店する外食産業が採用することに驚くとともに、「幅広きしめん」がきしめんブームの起爆剤になると期待した。

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これが「幅広きしめん」。とはいえ、約1.5cmと、幅広麺を出している麺類食堂のものよりもやや狭め。麺は手打ちではなく、製麺業者に特注したものを仕入れているのだろう。この幅が限界なのだろうか。

肝心な味だが、つゆにダシの香りが立っているわけでもなく、ガツンとくる味わいでもない。業務用のつゆっぽい。幅広麺以外に特筆すべき部分が見つからないのだ。'05年の愛知万博のフードコートでも同じような思いをした。

万博で食べたきしめんは本当にヒドかった。麺こそ平打ちだが、つゆは関西風だったりして、これを名古屋の郷土料理として紹介してよいのかと憤っていた。さすがに今では高速のSAなどでもかなりマトモになったが。

ここの場合、味は別として、きしめんを発信していく上での重要なコンテンツである幅広麺を外食産業が使うことを私は評価していた。ところが、先日訪れると、メニューに「幅広」の文字はなく、ごくフツーのきしめんを出していた。店のHPには今でも「極広名古屋きしめん」を謳っているのだが…。

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これも幅が広いといえば広い。しかし、以前に食べたものとは明らかに違う。おそらく、幅広麺はコストがかかるのだろう。幅広麺が唯一のウリだったわけで、味は言わずもがなである。残念で仕方がない。

『どんどん庵』の白つゆを初体験!

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セルフうどんチェーン店『どんどん庵』。家の近くにあるので、よくランチに利用している。私が注文するのはいつも、きしめんイカ天と決まっている。そして、つゆに名古屋味の「赤」、つまり、たまり醤油を使ったつゆを選ぶのも毎度のパターン。↑写真がきしめんイカ天、赤つゆ。

そういえば、あっさり味の「白」だけで食べたことがない。一時期、ツウぶって(笑)、赤と白を1:1や、7:3にしたりしたこともあったが、きしめん独自のムロアジ+たまり醤油の組み合わせにハマってからはやらなくなった。

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ってことで、今日『どんどん庵』へ行って、「白」のみで食べてみることにした。いつものようにきしめんを選び、茹で釜で麺を温めた後にイカ天を別皿にのせて会計へ。そしてネギをトッピングして、銭湯の洗い場にあるような蛇口のボタンを押して、あっさり味の「白」のつゆを注ぎ入れる。

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 ↑これが白つゆのきしめん。写真だと解りづらいかもしれないが、つゆの色はかなり薄い。まず、つゆをひと口。ん?ダシの香りが立つのをイメージしていたが、あまり感じられない。訪れたのが昼過ぎの、遅めの時間帯だったので、時間が経って香りが飛んでしまったのだろうか。チェーン店ゆえに味のバラつきは少ないと思っていたのだが…。

それでも赤つゆとの違いがはっきりと解った。醤油臭さが少ないため、白つゆの方は後味がよく、天ぷらとの相性も良いのだ。だから、天ぷらや玉子とじなどの種ものに白つゆを用いるのだろう。

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昨年末、取材で愛知県碧南市の白醤油を取材したとき、地元のうどん店『新実(にいのみ)』で白つゆのうどんを食べた。ひっきりなしに客が訪れるので、人気の店なのだろう。メニューに「温かいうどん・そばは白だしのつゆに変えられます」とあったので、白つゆにしてもらった。

↑写真はランチメニューの「B定食」。『どんどん庵』の白つゆよりも色が薄く、丼の奥の方の麺まで見えるほど澄んでいる。ここも名古屋の麺類食堂と同様に、ダシはムロアジでとっていると思うが、驚くほど上品。白醤油のポテンシャルの高さを目の当たりにした。

居酒屋チェーン『素材屋』の新なごやめし「台湾まぜそば鉄板焼き」

フードライターとして仕事をするようになった'02年頃から、大手のファミレスや回転寿司で食事をすることが少なくなった。個人経営の店を応援したいと思っているし、あわよくば取材のネタになるかもしれないというイヤラシイ気持ちもある。

あ、セルフうどんチェーンの『どんどん庵』や県内に店舗展開する『長命うどん』は別だ。これらの店にはきしめんの消費量を増やすために行く。また、あまり見かけないチェーン店や大手の新業態なども興味半分で入ることもある。

そんなわけで15年ほど大手チェーンから足が遠のいているのだが、少し前に名古屋に本社があり、しゃぶしゃぶが有名な『木曽路』が手がける居酒屋チェーンの『素材屋』へ行った。『素材屋』は名古屋以外に東京にも店があるので、ご存じの方も多いだろう。

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私の仕事の屋号は『取材屋』ということもあり、何となく親しみが持てる(笑)。実は名刺に使っている『取材屋』のロゴのデザインは、『素材屋』が昔使っていたものをパクり、いや、参考にさせていただいた(笑)。

入り口や店内に「なごやめし」をPRするPOPがないところが好感を持てた。グランドメニューにも、ごくフツーに、当たり前のように「味噌串カツ」や「味噌どて煮」、「手羽先の唐揚げ」が載っている。東京のお客さんは、メニューを見て初めてここが名古屋の居酒屋チェーンであることを知るのだろう。

私がここに訪れた目的は、台湾まぜそばをアレンジした「台湾まぜそば鉄板焼き」がメインの「名古屋めしコース」を食べるため。「新なごやめし」と呼ばれる台湾まぜそばがすでにアレンジされていることに驚き、自分の舌でどうしても確かめたくなったのである。

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これが台湾まぜそば鉄板焼き。台湾ミンチ(?)の上にのせられた卵黄やドサッと盛られたニラはまさしく台湾まぜそば。豚バラ肉やニンジン、中には麺とたっぷりのモヤシが入っている。

ちなみに台湾ミンチには豆味噌を使い、より名古屋らしい味に仕上がっている。味のベースとなるタレは、唐辛子味噌の辣醤(ラージャン)に和風ダシなどを合わせた自家製。写真のように湯気が立って、豚バラ肉に火が通ってきた頃が食べ頃。

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台湾まぜそばのように、よくかき混ぜて食す。そのまま食べても十分旨いが、別添えの生卵を溶いてすき焼きのようにくぐらせて食べても旨い。辣醤とニンニクのパンチのきいた味が溶き卵を絡めることでマイルドになり、いくらでも食べられる。もちろん、ビールや酎ハイとの相性も抜群だ。台湾まぜそばのように〆の「追い飯」がほしいところだが、酒のアテなので仕方がない。

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「名古屋めしコース」は、台湾まぜそば鉄板焼き以外にサーモン刺身や海老マヨサラダ、どて玉子、手羽先の唐揚げ、味噌串カツ、海老天むす、小倉トーストが付く(現在は少し内容が替わっている)。これら全8品に飲み放題が付いて3500円!チェーン店だからこそ、この安さとボリュームを実現させたのだろう。

150グラムものモモ肉を贅沢に使った「純系名古屋コーチンのひつまぶし」

これまで2日間にわたって、とんかつ(豚)と飛騨牛のひつまぶしを紹介してきたが、今日は鶏、それも名古屋コーチンを使ったひつまぶしを紹介しよう。

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写真は、栄2丁目にある『焼鳥 とりっぱ 伏見店』の「純系名古屋コーチンのひつまぶし」。店は純系名古屋コーチン岐阜県産の鶏肉を使った焼鳥の専門店。この「純系名古屋コーチンのひつまぶし」は、お酒の〆やランチで絶大な人気を誇る。

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贅沢に150グラムものコーチンのモモ肉を使用。炭火で焼き上げた後、鰻のひつまぶしのように細かく刻み、ご飯にのせてある。噛むごとに広がる濃厚な肉の味もさることながら、驚いたのは脂の繊細な旨み。飛騨牛の脂のように、口の中でサッと溶けていくのだ。これが名古屋コーチンの醍醐味だろうと思った。

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さらに、薬味のネギやワサビとともに食べると、別物になったかのようにさっぱりとした味わいになる。〆のお茶漬けもとても美味しかった。「かつまぶし」にはじまり、「飛騨牛ひつまぶし」もそうだったように、この「純系名古屋コーチンのひつまぶし」でも薬味をのせた2杯目がいちばん美味しかった。

逆にひつまぶしに使えるような食材のなかでワサビやネギ、だし汁と合わないものはないだろうと思った。ここに「なごやめし」にとって重要なポイントである汎用性の高さを感じざるを得ない。ひょっとすると、今後「ひつまぶし」という名称は、鰻に限ったものではなく、薬味やだし汁を使って味の変化を楽しめる、お櫃に入った料理の総称になるかもしれない。

これからも新しいタイプのひつまぶしを探し、レポートしてみようと思っている。

圧巻の旨さ!飛騨牛ひつまぶし

旨い鰻か高級な飛騨牛、食べるならどっち?鰻はもともと安くはなかったが、少し気合いを入れれば何とか手が届いた。しかし、ここ数年間でどんどん値上がりし、ひつまぶしは焼肉や寿司と並ぶ高級グルメになってしまった。では、こんなメニューはいかがだろう?

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丸の内2丁目にある『舎人庵 とんぼ』の「飛騨牛ひつまぶし」である。こちらは岐阜県飛騨市古川町の契約牧場から直送されるA4~A5等級の飛騨牛の炭火ステーキや朴葉味噌焼きなどが楽しめる飛騨牛料理専門店。「飛騨牛ひつまぶし」は、絶妙な火加減で焼き上げたロース肉をご飯の上に敷き詰めた店の名物である。

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タレはこのメニューのために作り上げたオリジナル。醤油のコクが飛騨牛の濃厚な旨みを引き立てて、繊細な脂の口どけとともに芳醇な香りが鼻から抜ける。この旨すぎるタレは何なんだ!?店主に聞いてみると、イタリアンのシェフからのアドバイスで隠し味にバルサミコ酢を使っているという。

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食べ方はひつまぶしと同じ。1杯目はそのまま。2杯目は薬味のネギとワサビ、刻み海苔をのせて。3杯目は熱々のダシでお茶漬けに。私が気に入ったのは、2杯目。飛騨牛のとろけるような脂がワサビの刺激と相まってめちゃくちゃ旨いのだ。できることなら特大のドンブリでかっ喰らいたい(笑)。

アメリカ産やオーストラリア産のステーキ用の肉を買ってきて、和風の焼肉のタレで味付けしてご飯にのせれば、まったく同じ味とまではいかないにしても、似たようなものが家でも作れると思うだろう。しかし、肉そのものがまーったく違うのだ。最高級の飛騨牛だからこそ、この味が出せるのである。

ちなみに「飛騨牛ひつまぶし」の値段は、いちばんベーシックなもので3300円(税込3564円※店のHPより)。ひつまぶしとカブる値段である。さて、食べるならどっち?

イイ意味で期待を裏切られた「かつまぶし」

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写真は一宮市にある『とんかつ たる蔵』の「かつまぶし」である。その名の通り、とんかつをひつまぶしのように薬味とだし汁で食すメニューだ。ネットでこれを見つけたとき、正直、「これはない」と思った。いくら、ひつまぶし人気にあやかりたいとはいえ、これは強引すぎると思ったのだ(笑)。しかし、実際に食べてみると、見事に予想を裏切られた。

見た目からかつに使っているのはヒレだと分かったものの、かつにかかっているのはソースなのか?醤油なのか?それとも、ひつまぶしを意識して鰻のタレかもしれない。味がまったく想像できなかったが、答えは醤油ベースの自家製タレだった。これがヒレかつとご飯とを一体化させるコネクタの役割を果たしていて、めちゃくちゃ旨い!このタレに行き着くまでかなり苦労したそうだ。

「とんかつソースや鰻のタレ、だし醤油などいろいろと試しました。ご飯と合わせたり、お茶漬けにしたりすると、どうしてもバランスが悪くなってしまうんです。試行錯誤を重ねて作りました。詳しくは言えませんが、鰻のタレも入っています」と、オーナーの伏屋文克さん。

薬味はひつまぶしにも用いられる刻み海苔とワサビ、そして、塩昆布。これも本当によく考えられていると感心した。ヒレかつに昆布の旨みがくわわると旨みが倍増するのだ。もう、例えようのない旨さ!思わず、貪り食ってしまった。

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さらに驚いたのが、だし汁。通常、ひつまぶしは鰹だしを使うが、ここでは昆布茶。これもめちゃくちゃ合う!旨いのはもちろんだが、昆布茶であれば、いちいちだしをとる手間が省けるので、店側のオペレーションも楽になるというメリットがある。

この「かつまぶし」は、2000(平成12)年に系列店の『かつ秀 各務原店』で、巷のとんかつ店にはないオリジナルメニューとして考案されたという。当初は期間限定メニューだったが、人気が出たためグランドメニューにくわえられたのだ。

一部の店の名物だったひつまぶしが巷の鰻屋でも食べられるようになり、「なごやめし」を代表するメニューとなったように、この「かつまぶし」もその可能性は十分にあると私は思う。

「新なごやめし」とは何か

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前にも書いたが、私の幼い頃は町の鰻屋さんにひつまぶしは置いていなかった。ひつまぶしそのものは『あつた蓬莱軒』や『いば昇』で出されていたと思う。ひつまぶしは、それらの店の常連が食べていた知る人ぞ知るメニューだったのである。

水産業界紙の記者に聞いてみたところ、ひつまぶしが町の鰻屋さんでも食べられるようになったのは、愛知万博が開幕する少し前だという。つまり、一部の店の名物だったひつまぶしが「なごやめし」の知名度アップと平行する形でメジャーになっていったのだ。伝統ある料理に思われがちなひつまぶしが人々に知れ渡ったのは、たった15年前のこと。驚くべきスピードで広まったのは、テレビや雑誌といった既存のメディアのほかインターネットの急速な普及も後押しとなった。

ひと昔前までは東京で流行っていたものが名古屋を飛び越えて大阪でもブームとなり、かなり遅れて名古屋へとやってきた。しかも、名古屋にたどり着く頃には、伝言ゲームの後半部分のように少し違う形に「進化」していた。当の名古屋人もブームの大元をよく知らないので(笑)、それが東京で流行っていると信じて疑わなかった。

一例を挙げると、バブル期を象徴する(実際はバブル崩壊後)ジュリアナブームである。『ジュリアナ東京』では、名物「お立ち台」でワンレン&ボディコン姿の女性が“ジュリ扇”と呼ばれる羽根付きの扇子を振り回しながら踊っていた。そのブームが少し遅れて名古屋にも到来したのだが、伏見の『キング&クイーン』や女子大の『マハラジャ』などディスコの「お立ち台」ではワンレン&ボディコンどころか、パンツも丸出し、勢いでトップレスになる女性もまでいた。

このように東京のブームとは少し違う形に「進化」していたのだ。それが東京の編集部から見たら面白いらしく、当時、駆け出しのカメラマンだった私は夜な夜なディスコに繰り出してお立ち台の女性にレンズを向けた。しかし、今はインターネットで東京どころか世界的なブームの情報を瞬時に入手することができるので、タイムラグはほとんどない。

ずいぶんと前置きが長くなったが、ここからが本題。既存の「なごやめし」に独自のアレンジをくわえた「新なごやめし」について考えてみようと思う。ひつまぶしに限らず、台湾ラーメンあんかけスパ、イタリアンスパなども、もともと店の看板メニューだったわけである。それが地元の人々から高く評価され、真似をする店が増えていき、名古屋のローカルフードとなった。

これらのムーブメントは昭和の、古き良き時代のみに起こったわけではない。「なごやめし」は昔ながらの懐かしい味を楽しむものでもあるが、それがすべてではない。

「バターや生クリームをふんだんに使ったクラシックスタイルこそがフランス料理だ!」と主張する人はよほど了見の狭い人だろう。現代のフランス料理は、醤油や抹茶、カレー粉なども遠慮なく使うのだから。つまり、食文化は時代とともに変化するのだ。

私たちの記憶に新しいのは、台湾まぜそばだろう。台湾まぜそばを生み出した『麺屋はなび』の新山直人社長は、「新なごやめし」というキャッチフレーズを用いていた。台湾まぜそばも地元の人々に高く評価され、他店もこぞって真似をした。もはや台湾まぜそばは「新なごやめし」ではなく、「なごやめし」であると私は思っている。

私は講談社のグルメ情報誌『おとなの週末』で'14年11月から'15年7・8合併号まで「おと週認定“新名古屋めし”」という連載ページを担当した。誌面では従来の「なごやめし」に独自のアレンジをくわえて進化させた料理を「新なごやめし」と定義していた。私は書き手として、誌面で紹介した「新なごやめし」がもっとメジャーとなり、何十年後かに「なごやめし」として定着することを願っていた。今後はこのブログでも「新なごやめし」を紹介していこうと思う。

※写真は、名店『うな富士』で料理長を務めた店主が東区徳川町に開店させた『炭火焼き鰻 清月』の「ひつまぶし」。特筆すべきは甘さと辛さが絶妙な『うな富士』譲りのタレ。備長炭で香ばしく焼き上げた鰻の旨みをが引き出している。