永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

為セバ成ル。カケル

今日から島根県松江市へ出張。仕事を終えてから、ホテルにチェックイン。少し休んでから夕食を摂るためにJR松江駅へ向かった。

どこかに美味しい店はないかと調べようと思ってスマホを見ると、着信履歴が残っていた。以前に取材でお世話になった飲食店のご主人、Kさんからだった。

Kさんの店には名物がある。それはKさんが長年にわたって研究し、試作と試食を繰り返しながら、やっと完成させたものだった。私はその名物が気に入って、いろんなメディアで紹介させてもらった。

前にKさんから連絡があったのは、コロナ前だった。その名物を工場で作って、今以上に多くの人々に知ってもらえるようにするという話だった。これまでのKさんの努力が報われたような気がして、私も嬉しくなった。

ところが、しばらくして再び連絡があり、売り上げ金を未払のまま工場の社長が逃げてしまい、大きな損害を被ったという話を聞いた。私はどうすることもできず、ただ話を聞くことしかできなかった。

そして、今日。Kさんは名物を工場で作るということが諦められず、一緒にやってくれそうな人を紹介してほしいという相談だった。

一介のフードライターである私にそんなコネがあるはずもないことはKさんもわかっていたと思う。しかし、切羽詰まっていて、縁のある人に片っ端から連絡をしていたのかもしれない。

話を聞いてみると、コロナ収束後も平日は客足が伸びず、今は朝9時から夕方5時まで運転手のような仕事をして生計を立てているという。店は夜の営業だけとはいえ、夕方5時まで働いていたら、仕込みも満足にできないし、料理人としての技術も発揮できないではないか。

誰かと組んで名物を工場で作るにしても、今の状況では多少無理な条件を出されたらKさんは飲んでしまいかねない。それは結果的に本業である料理人としての自分自身をも安売りすることになる。

今、Kさんがやるべきことは店を繁盛させて、こちらからではなく向こうから「名物をウチで作らせてください」と言わせることではないのか。

変えるのは環境ではなく、Kさん自身の気持ちの方ではないのか。そのお手伝いであれば、私は喜んでさせていただくと話した。

Kさんは私よりも2、3歳年上だったと思うが、生意気なことを言ってしまった。でも、それが私自身の本音。Kさんに伝わったかどうかわからないが、料理人として再起をかけるというのであれば、私は協力を惜しまない。

松江駅で1時間くらいKさんと電話で話をしたら、さすがに腹が減ってたまらなくなった。この際、もうどこでも構わないと思い、駅構内にある小洒落たラーメン店に飛び込んだ。

席に案内されてからメニューに書いてある店名を見て驚いた。その名も『らあ麺ダイニング 為セバ成ル。カケル』。

Kさん、為せば成るのだ。料理人として再起をかけるのだ。

Kさん、頑張れぇ!!!