永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

撮影料。

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ギョーカイあるあるを一つ。

「今回は撮影の予算がまったく取れなくて……。本当に申し訳ないのですが、○○○円しか出せないんです。次回はしっかりと予算組みした上でお仕事をお願いしますから、今回だけは何とか○○○円でやっていただけないでしょうか?どうしても、ナガヤさんと仕事がしたいんです!お願いします!」

という仕事に「次回」は、ない。一方、

「ギャラの安いお仕事で本当に申し訳ございませんが、お願いできますでしょうか?」という仕事のギャラは高い。

これ、本当の話。前者は、「どうしても、ナガヤさんと仕事がしたいんです!」というのがポイント(笑)。人情としては、引き受けたくなるが、口だけなら何とでも言える。っていうか、みんなに言ってると思う。いや、間違いなく、言ってるな(笑)。

料金を決めるのは、本当に難しい。雑誌やWebメディアの場合、会社ごとに既定のギャラがある。つまり、金額を決めるのは仕事を依頼する側にある。しかし、広告の場合は自分で決めねばならない。

広告の仕事をそんなにやっていなかった頃、たまに仕事のオファーが来ると本当に困った。料金を設定するのに慣れていないから、

「雑誌の仕事のギャラは出版社が決めていますから、そちらで決めてもらえませんか?」と、言ったこともある。困っただろうなぁ(笑)。結局は、出版社のギャラとだいたい同じくらいの金額で引き受けたが。今思えば、めちゃくちゃ安かった。

ここだけの話、撮影の仕事でも出版と広告ではまったく違うのである。その理由は、出版は消費されるもの、広告は遺るもの、という考え方にあると思う。

私の場合、半日(3時間以内)が4万円で、一日(3時間以上)が6万円と決めている。いずれも消費税別でプラス交通費や駐車場代などの経費も別途いただく。

3時間というのは短く思われるかもしれないが、照明機材の設営や撤収の時間は含まない。純粋に撮影に費やす時間なので、メニューブックやHPに載せる写真であれば、3時間でかなり撮れる。

この金額は、広告代理店に勤めていた友人に名古屋のカメラマンの相場を聞いて、それに合わせた。かなり前に設定した金額なので、たぶん、安いと思う。

にもかかわらず、「高い」という人もいる。『メイク&フォト』の11,550円も「高い」と言われたこともある。価値観の違いといえばそれまでだが、

「写真の値段なんて、“あってないようなもん”だろ?」という暴論には、反論せねばなるまい。

病院のCTやMRIで働く人に例えるとわかりやすい。彼らは医療機器を巧みに操作して解析するのが仕事である。よく知らんけど。そんな彼らに同じことが言えるのかという話である。

医療機器を導入するのに、莫大な費用がかかることはわかるだろう。さらにそれを扱い、診断結果を解析する能力を身に付けるために学校にも行っている。職場でも何度も研修を行ったはずだ。

私たちカメラマンも素人さんが持っていないような高額な機材を使う。それを使いこなすために学校にも通った。感性を磨くために、映画や本にもお金をかける。駆け出しの頃に何度も失敗して、その度に頭を下げて再撮影をさせてもらって今の自分があるのだ。

“あってないようなもん”を認めてしまうと、私の存在そのものが“あってないようなもん”になってしまう。そもそもこの世に“あってないようなもん”なんて存在しない。存在してはいけない。その価値観は暴論以外の何ものでもない。

医療機器とカメラは違う?たしかにそうだ。iPhoneでもキレイな写真が撮れる。それは認める。ならば、撮ってみるとよい。私たちカメラマンが、そのiPhoneで撮影した写真に周回遅れ、それも3周遅れくらいの大差をつけた写真を、オノレの完成とこだわりのカメラ、照明機材を使って撮ってやる。それがプロってもんだ。