永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

「好き」であることは何よりも勝る

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ある仕事で声優志望の高校生の女の子に会った。聞いてみると、第一線で活躍している声優になるのは非常に狭き門で、だいたい志望者1000人に対して1人しかなれないという。

それを思えば、カメラマンやライターはなんてヌルいんだ。仕事を選ばず、数をこなせば何とか食っていくことができるんだから。まぁ、それが嫌だから悩みが尽きないんだけど……。

彼女の話を聞いていて、学生時代の恩師のことを思い出した。授業の中で私たち学生が撮影した写真を批評する時間があるのだが、私は恩師の話がさっぱり理解できなかった。

だから、どうすれば写真がよくなるかもわからず、もがき苦しんだ。いっそのこと写真をやめてしまおうと考えたこともあったし、何週間もカメラを触らなかったこともあった。でも、写真以外の道は考えられなかった。

月日が流れて、私は恩師から呼ばれて母校の講師となった。そして、卒業制作の批評にも参加させていただいた。恩師は並べられた作品を前にして、私の学生時代とまったく変わらず、学生たちに熱弁をふるった。かつての私と同様に、学生たちはポカーンとしていたが、そのとき、私は恩師が言いたかったことが初めて理解できた。

それを思いっきり短くまとめると、

「好きなことをとことん、もう限界というところまでやってみろ!」ということだった。写真専門学校へ入学したということは、写真が好きなはずである。その気持ち、今どきの言葉でいえば、モチベーションをいかに持続することができるか、なのだ。

実際、とくにやりたいことはなくて何となく入学した学生はどんどん辞めていった。私の同期は50人くらいいたが、今でもカメラマンとして仕事をしているのは5、6人くらいである。

私も写真が好きだからこそ今まで続けることができたと断言できる。写真が撮れるなら、いくら貧しくても構わないと思ったし、今でもその気持ちは変わらない。写真に限らず、絵でも、歌でも、演技でも、料理でも「好き」であることは何よりも勝るのだ。

さて、声優志望の彼女は、高校卒業後、声優・タレントコースのある大学へ進学するという。私なんぞがアドバイスできる立場ではないが、彼女との別れ際に

「声優・タレントコースに入学する人たちは、当たり前だけど、それが好きなんだよね。その中から夢を叶える人というのは、声優として役を演じているときに生きていることを実感するくらい好きだという人だと思うよ。オレだってファインダーを覗いて、写真を撮ってるときに、あーオレは生きてるって実感するもん」と、エールを贈った。

彼女は目を輝かせながら、頷いていた。が、それは私自身に対する戒めでもあった。仕事でもプライベートでも、あと、どれくらい写真が撮れるのかはわからない。1枚でも多くシャッターを切り、作品を残すことが私の生きる道なのである。