永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

きしめんの真骨頂は「つゆ」にあり。

10年ほど前になるが、仕事で香川県へ行ったとき、生まれて初めて本場の讃岐うどんを食べた。世の中にはこんなにも旨いうどんがあるとは!と、感激した。ところが、今年3月に再び香川県讃岐うどんを食べたとき、前回のような感激はなかった。名古屋の百貨店の催事にも出店する有名店ということもあって、旨いことは旨いのだ。しかし、何か今ひとつ、物足りなさを感じた。

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その理由はすぐに判った。きしめんである。少なくとも週に2回は食べているきしめんの味にすっかり慣れてしまっていたのだ。エッジの立った讃岐うどんと平打ちのきしめん。麺の違いは一目瞭然だが、きしめんの特徴は何も平打ちの麺だけではない。つゆにこそ東西のうどんとの違いがある。

うどんに使うダシは関東は鰹、関西はさらに昆布をくわえる。讃岐はいりこだ。一方、名古屋ではムロアジをメインにさば節やソウダカツオなどを使う。鰹や昆布をくわえる店もあるが、それはごく一部。ムロアジでとったダシは鰹や昆布のような上品さはなく、例えるならば、野趣溢れる味。このダシにコクのあるたまり醤油(天ぷらや玉子とじなど「かけ」以外は白醤油)を合わせたのがきしめんのつゆなのだ。

ちなみに味噌煮込みうどんも出す店であれば、ダシはきしめんと同様にムロアジとなる。ムロアジ特有のクセが豆味噌のコクと相まって、鰹だけでは出せない深みのある味わいになるのである。

愛知県内の麺類食堂ではメジャーなムロアジだが、なぜ使われるようになったのかは定かではないという。ある麺類食堂の店主は、

「地元でムロアジが獲れたから、というのがいちばん説得力のある理由ではないでしょうか。で、醤油はたまり醤油しかなかったわけですから、必然的にそれを使う。合わせてみたら、たまたま相性がよかったんでしょうね」と、推測する。

'05年の万博開催とともに脚光を浴びた「なごやめし」のなかでも日の目を見なかったといわれるきしめん。当時、「なんとなく味が予想できるから」という意見を聞いたことがある。それもメジャーになれなかった理由の一つなのだろう。たしかに見た目は平打ちの麺以外に全国で食べられるうどんとの違いはないが、食べてみれば一舌瞭然。違いがわかるのだ。今さら遅いかもしれないけど、ライターとして、ムロアジのダシとたまり醤油を合わせた名古屋独自のつゆをもっとPRすればよかったと悔やまれてならない。

きしめんを食べる機会があれば、平打ち麺を噛んだときにあふれ出す野趣溢れるダシとたまり醤油の深いコクを堪能していただきたい。

写真は名古屋市西区那古野にある「円頓寺商店街」にある『めん処 二ツ玉』の「きしめん」。濃い色のつゆにのるのは、朱色の名古屋かまぼこと煮揚げ、ホウレン草、ネギ(※)、花かつお。これが昔ながらのスタイル。※店によってネギは別皿で提供される。