永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

肉や骨、あらゆる部位から旨みが染み出す「純系名古屋コーチン丸鶏鍋」

味噌煮込みうどんが有名な『山本屋 大久手店』。普段、私はシンプルな「親子煮込み」、つまり、鶏肉と卵入りを食べるのだが、以前に「玉子入り純系名古屋コーチン煮込み」を食べさせてもらったことがある。そのとき、「親子煮込み」とあまりにも違うことに驚いた。ここは鶏肉も愛知県産にこだわっているので、旨いことは間違いない。しかし、コーチン入りは旨すぎるのだ。きっと、コーチンの肉から出る旨みがつゆに染み出して、まったく別物になるのだろう。

『山本屋 大久手店』は、味噌煮込みうどんが代名詞ともいうべき有名店であるが、実は名古屋コーチン料理にも定評があるのをご存じだろうか?味噌煮込みうどんの具材として仕入れていた名古屋コーチンの美味しさをもっと伝えたいと、名古屋コーチンの天ぷらや天むす、焼き鳥などのメニューも用意している。常連客の間ではかなり人気のようだ。そんななか、昨年の冬に「名古屋コーチンを使った鍋を作った」との連絡をいただいた。味噌煮込みうどんの店ゆえに、以前このブログでも紹介した『鳥久』や『宮鍵』のような味噌鍋をイメージした。しかし、その予想は見事に裏切られた。

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これが「純系名古屋コーチン丸鶏鍋」である。ご覧の通り、コーチンの丸鶏がゴロッと入っている。写真だと判りにくいが、若鶏の1.5倍くらいはあり、4~5人分のボリューム。しかし、ただ単にコーチンを放り込んであるわけではない。丸鶏の皮目を軽く炙った後、半日かけてじっくりと煮込んであるのだ。そのスープと味噌煮込みうどんに使う味噌ダレを合わせたつゆが味の決め手である。

ひと口飲むごとに肉や骨、あらゆる部位から染み出たコーチンの力強い旨みと、岡崎産のカクキュー八丁味噌がベースの味噌ダレのコクが広がり、身体の隅々にまで染みわたるようだ。長時間じっくりと煮込んでいるにもかかわらず、肉はしっかりとした味がある。さすがは名古屋コーチンだ。しかも、箸で切れるほどやわらかく、しっとりとした食感。蟹を食べるときのように、思わず無言で食べ続けてしまった。

鍋の締めくくりはもちろん、うどん。「打ちたて・切りたて・茹でたて」を味わってもらおうと、1日5回も麺を打つという。だからこそ、噛むごとに小麦の味と香りが口の中で広がるのだ。そんなこだわりのうどんを丸鶏鍋のつゆでいただくのだ。不味いわけがないではないか!コーチン入りの煮込みをはるかに上回る濃厚な旨みを吸いまくったうどんの旨さはハンパない。こりゃたまらんっ!

『山本屋 大久手店』5代目で専務取締役の青木裕典さんによると、

名古屋コーチンの鍋は前から考えていたのですが、4代目の女将でもある私の母が知り合いの韓国料理店で参鶏湯を食べたときに丸鶏を入れるというアイデアが浮かんだそうです」とか。とはいえ、この鍋は名古屋風参鶏湯的な創作メニューではない。90余年にわたって培われた伝統の味噌ダレが肝なのである。その汎用性の高さから生まれた一品なのだ。