永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

どて焼き進化論。

今日は、名古屋商工会議所の会報誌『NAGOYA』の取材。で、今回採り上げるのは、どてめし。あ、どの店かはナイショね。

何度か取材に行ったことがある店だったので、事前に原稿を書いていた。そのとき、どてめしが死ぬほど食べたくなった。それが一昨日の話。

必死で堪えること2日間、その思いをようやく遂げることができた。やはり、食べたいと思ったものを食べることができるのが人生における幸せなのかもしれない。

さて、名古屋のどて煮のルーツを調べてみると、大阪が発祥らしい。「どて焼き」と呼ばれ、鍋のふちに味噌を土手のように盛って、その中央で具材を焼き、熱で溶け出した味噌で煮込んでいくことからその名が付けられた。

大阪から名古屋へ伝わったのは戦後。伏見の広小路通に建ち並んでいた屋台から広がった。当時は、鍋ではなく熱々の鉄板で調理されていたらしい。今では具材を焼くプロセスを省いて鍋で煮込んでいる。どて煮と呼ぶのもそのためだろう。

大阪では合わせ味噌を使うが、名古屋では豆味噌。わざわざ使ったのではない。たまたま身近にあったのが豆味噌だったのだ。これが革命を起こすことになる。いや、決して大げさな話ではなく、マジで。

豆味噌は、火を入れれば入れるほど、味の角がとれてまろやかな味わいになる。例えば、味噌汁。煮詰まった合わせ味噌や白味噌の味噌汁なんて不味くて食べられないだろう。赤だしは逆に煮込むほどにおいしくなる。

私が子供の頃、母は毎朝、昼と夜の味噌汁も一度に作っていた。その都度温め直して食べるのだ。これが私はキライだった。でも、今無性に食べたい。

また、豆味噌は肉や魚介との相性もすこぶるよい。豚汁やあさり汁は誰が何と言おうと豆味噌がいちばん旨い。合わせ味噌の豚汁はギリギリ大丈夫。でも、あさり汁はちょっと食べられない。合わせ味噌を使っている地域の方には申し訳ないけど。

味噌煮込みうどんもそんな豆味噌の特性を生かした料理ではあるが、その最高峰はどて煮だと私は思っている。

最高峰たる所以は、豆味噌はご飯にも合うということ。お酒に合うものはだいたいご飯との相性もよいのだが、大阪のどて焼も東京のもつ煮もご飯にのせるだろうか。少なくとも私は聞いたことがない。

大阪から伝わったどて焼きは、豆味噌文化圏の名古屋でどて煮へと進化を遂げ、完成したのだ。