永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

カッコイイ大人。

私がまだ駆け出しのペーペーだった頃、周りにはカッコイイ大人が沢山いた。とくに作品を片手に東京の編集部をまわったときにそれを実感した。

某週刊誌編集部のS村さんは、編プロ時代からお世話になっていた一人。編集部内の彼のデスクには民族派右翼の野村秋介氏の写真が飾られていた。

私が鈴木邦男さんの本を読んでいることを話すと大変喜び、そこから編集者とカメラマン、ライターの関係から、同じ思想を持つ先輩と後輩のような関係になった。

フリーになってからは一緒に仕事をする機会は減ったが、編集部を訪ねると
「おーっ!よく来たなぁ。よし!飲みに行こう!」と、夕方には編集部を後にしてよく飲み歩いた。

場所は編集部がある新橋界隈。新橋といえば、テレビでサラリーマンがインタビューされている場所という認識しかなかった。今はどうかはわからないが、当時は小さな居酒屋や小料理屋が軒を連ねていて、S村さんは馴染みの店に連れて行ってくれた。

S村さんの故郷である熊本の郷土料理店にはじまり、3、4軒はハシゴしたと思う。最後はフィリピンパブのカラオケで軍歌を歌って締めくくった。

そこで私は気がついた。どの店もS村さんは飲み代を支払っていなかったのだ。
「S村さん、今日連れて行ってくださった店の支払いってされてましたっけ?。私、お支払いします」と財布を取り出すと、S村さんはそれを制止して
「いやいや、大丈夫だよ。どの店にも年の始めに1年分の飲み代をあらかじめ払ってあるんだ」と教えてくれた。

むちゃくちゃカッコイイと思った。後払いの「ツケ」ではなく、前払い。店にとってもS村さんは上客に違いない。

カッコイイ大人はもう一人。今も一緒に仕事をさせていただいている編集者の山本由樹さんだ。駆け出しの頃に東京の編集部へ行くと、よく食事へ連れて行ってくださった。それも20代の若造にとっては敷居の高い、すごくイイ店。

つい先日も一緒に仕事をしたのだが、
「寿司と蕎麦、天ぷら、うなぎは行きつけの店があるんですよ」と、由樹さん。東京生まれ東京育ちゆえに「江戸前」といわれる料理にとても深いこだわりがあるように見える。それがむちゃくちゃカッコイイ。

新橋で一緒に飲み歩いたS村さん。イイ店へ連れて行ってくださった由樹さん。当時の2人の年齢を私はとうに超えてしまったが、カッコイイ大人にはほど遠いな。