永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

面倒くさい作業の代償。

↑これが何かわかる人は、カメラマンかその界隈の人。これは光の強さを測って、適正な絞り値を算出する露出計という道具である。フリーになったばかりの頃に買ったもので、30年近く使っている。

カメラがフィルムからデジタルに変わって、露出計を持っていないカメラマンも多いと聞く。たしかに、デジタルならその場で写真を確認できるため、露出計は要らないといえば要らない。

しかし、私はフィルム時代からの習慣で、露出計がカメラバッグの中に入っていないと何だか落ち着かない。だから必ず現場には持っていく。とくに照明機材を使った撮影では一発で露出を測ることができるので重宝している。

料理をきっちりと撮影するのであれば、撮影機材は絶対に必要であると私は考える。料理にいかに光を当てて引き立てるのか。つまり、ライティングこそがプロの仕事なのだ。

4、5年前の話。某グルメ情報誌の取材と撮影で某とんかつ店へ行ったとき、私よりも年上のカメラマンが店のメニュー撮影をしていた。店としては、取材・撮影もメニュー撮影も一度にやった方が効率的だと思ったのだろう。それは問題ではない。

しかし、そのカメラマンは照明機材を持っておらず、窓際で自然光を光源にして撮影していた。一方、私はできるだけ自然光が入ってこない場所を選んで照明機材をセッティングした。自然光が入ってくると、照明機材と色温度が異なるため、思った色が出ないからだ。撮影の光源は1つ、というのが基本なのである。

取材したメニューをテーブルに並べてシャッターを切っていると、

「ちょっと!お兄さん!」という声が聞こえた。窓際で撮影していたカメラマンだった。店の人に話しかけているのかと思いきや、私を呼んでいたのだった。いったい何の用があるというのか。振り向くと、耳を疑うようなことを言い出した。

「ちょっと、これ、撮って!」と、小鉢に入った料理を持ってきた。どうやら、自然光では上手く撮れなかったらしい。ま、そりゃそうだ。照明機材を持ってきていないアンタが悪い。

にもかかわらず、その場に居た初対面の私に対して自分の名前も名乗らず、それを撮れというのは、どう考えてもスジ違いだろ。知らんがな。当然、「そんなこと、私に言われても困ります」と断った。

きっと、そのジジイ、もとい、カメラマンは、普段は公園などで家族写真やプロフィール写真を撮って小銭を稼いでいるのだろう。照明機材も要らないし、カメラ任せでもある程度はキレイに写るし。

でも、料理写真はそうはいかなかった。そういうことだろう。料理撮影をナメてんじゃねぇぞ、クソジジイ。

重たい機材を担いで現場へ行って、機材をセッティングして、撮影して、機材を片付けて、また重たい機材を担いで帰るというのは、ハッキリ言って面倒くさい。カメラとレンズで仕事が成立するなら、どれだけラクだろう。

それをやらないのは、どれだけカメラの性能が良くなったとしても、カメラとレンズだけで料理の撮影はできないとわかっているからだ。逆に言えば、面倒くさい作業の代償としてギャラをいただいていると思っている。

ホント、料理撮影をナメてんじゃねぇぞ!