永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

商売の禁じ手。

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商売をしていると、どうしても利益率を考えてしまう。いちばん手っ取り早いのがコストの削減だろう。飲食店であれば、1円でも安いところから食材を仕入れる努力は、どの店もしていると思う。

しかし、食材のレベルまで落としてしまうことは、どんな理由があろうとも禁じ手だ。今日取材へ行った店で、某有名店が食材を1ランク落としたという話を聞いた。仕入れ業者からの話なので、噂ではなく、事実なのだろう。私も知っている店だったので、ショックを受けた。

コロナ禍で客足が伸びず、売り上げが減少しているのもわかる。その中で家賃や人件費、水道光熱費などの経費も払っていかねばならないこともわかる。しかし、食材のレベルを落としてはダメだ。絶対に。

「味をつけりゃわかりゃしない」と思っているのは、店のご主人だけ。足繁く通う客にはすぐにバレる。悪いことは言わない。本当に止めたほうがよい。

客は、「あの店に行けば間違いない」と思って店へ行くのである。味が落ちた、とわかったときの残念さは、怒りに変わる。例えるならば、付き合っている彼女や彼氏に、どうしても許せない部分を見つけてしまったうようなもの。

いや、それならまだ関係を修復できる可能性があるな。飲食店の「裏切り」は即、別れにつながってしまうのだ。ヘタをすると、『食べログ』に悪口を描かれる可能性だってある。食材のレベルを落とすことは、店にとって命取りになるのである。

あと、業者を泣かせるのも客商売としては絶対にやってはいけない禁じ手だと思う。以前、外資系の高級ホテルで働いている人に、

「ホテルに出入りしている業者さんにもお客様と同じ対応をするように教育されました。業者さんもお客様としてホテルを利用されることもあるから、と」と聞いたことがあった。目から鱗だった。つまり、業者も泊まりたいと思うようなホテルを目指していたのだ。

飲食店も然り。例えば、業者が知り合いや友人にどこか店を紹介してほしいと頼まれたら、さんざん値切り倒す店をわざわざ勧めるだろうか。むしろ、「あそこは絶対に行くな!」と言うだろう。業者も血の通った人間なのだ。自分と同じように、嬉しければ笑うし、悲しければ泣く。それを忘れてはならない。

私は、正直に商売をしている人が好きだ。正直ゆえにお金はそんなに儲からないかもしれない。しかし、困ったときには必ず助けてくれる人が現れる。業者だったり、常連客だったり。それが商売の喜びではないだろうか。