永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

生きるとは、食べること。

毎朝、私はペーパードリップでコーヒーを淹れながら朝食を作っている。邪道かもしれないが、コーヒーはゆっくりとお湯を注ぐと美味しくなるような気がして、時間をかけてドリップする。

お湯を注げばすぐにできるインスタントコーヒーを使えば、半分以下の時間で出来上がる。効率というものを考えたら、その方がよいだろう。

わざわざコーヒーを淹れるのは、美味しいコーヒーが飲みたいという思いもあるが、私にとっては、ドリップする時間そのものが尊いのである。

そこからいろんなアイデアが生まれたり、大げさかもしれないが、文化が構築されたりする。心が豊かになることにつながる。

モノをつくるというのは、面倒くさくて単調な作業の繰り返しである。「手間暇」ともいう。料理は手間隙かけた方が美味しい。それはわかっていても、面倒くさくて単調な作業をしたくないから、インスタント食品や冷凍食品が生まれる。

いや、インスタントをディスっているわけではない。私も食べているし。極端な話、食生活すべてがインスタントや冷食になったら、それはイヤだな、と。

豊橋市の食品加工会社「まんてん.」の社長、黒田孝弘さんは、市場価値がなく、廃棄される「未利用魚」の活用に取り組んでいる。つまり、深刻化する食糧問題を真正面から取り組んでいるのだ。

黒田さんの真摯な姿勢に感銘を受けた私は『東洋経済オンライン』で黒田さんの取り組みを紹介させていただいた。

toyokeizai.net

そんな黒田さんから興味深い話を聞いた。未利用魚の活用に私は農水省などの行政から助成金や補助金が出ていると思っていたが、実際はそうではないという。

「同じ魚介を扱っている養殖業には補助金は下りるんです。つまり、これからは獲れるか獲れないかわからない漁よりも、確実に生産量が見込める養殖に力を入れていこうと思っているのではないですかね」と、黒田さん。

言い過ぎかもしれないが、野菜を工業製品のように作るようになって、農業はダメになった。子供の頃に食べた青臭いキュウリや甘ったるい人参を食べることができなくなった。

にもかかわらず、魚介も工業製品化しようとしているのだ。この国の役人や政治家は。

養殖のタイやブリもひと昔前と違ってレベルが相当上がっているのは理解している。しかし、やはり天然ものとはまったく違う。天然ものならではの味や食感が人々に喜びを与え、心を豊かにするのだ。

生きることは、食べること。効率を求めるヤカラはそれをわかっているのだろうか。