永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

夢への第一歩。

 

50代は人生の総仕上げの時期であり、波風を立てず、平穏無事に過ごすもの。私が20代、30代の頃はそう思っていた。

実際にそんな50代を生きている方もいるだろう。が、50代になったから人生に安定を求めるのではなく、20代や30代の頃から安定志向を求めていたのだと思う。50代における安定とは、それまでどう生きてきたのかの結果なのだ。

私は安定した人生に対しての憧れはあるが、求めてはいない。仮に50代だからそろそろ落ち着こうと思ったとしても、それは無駄な抵抗となる。そもそも、これまでそんな生き方をしてこなかったのだから。

昨日、私と同世代である2人の方から夢を聞かせてもらった。2人とも取材が縁で知り合った飲食店のオーナーであり、彼らの食や食文化に対する熱い想いは、私自身にも大きな刺激になっていた。

50代だろうが、60代だろうが、いくらでも夢を描けるのである。あらためてその事実に気がつかせてもらった。「おっさんがナニを夢見てんだか」と笑う奴は笑えばよい。もちろん、夢を実現させるためにはリスクを伴う。大のオトナが大真面目に取り組むのである。そんなことは百も承知である。

今、コロナ禍で飲食業界は大打撃を受けている。もう、ここ1年間は誰からもイイ話は聞かない。そんな中、一筋の光を見出したような気持ちになった。もちろん仕事として取り組む以上、利益を出すのは当たり前である。が、その先にある文化の構築をめざしている。だからこそ、彼らの周りには多くの人々が集まってくるのだ。

詳しくはまだ書けないが、私もまた彼らが描いている夢の、ほんの一部分を共有させていただく機会を得た。

「ナガヤさんなら、わかっていると思うから」と、彼らはおっしゃってくださった。私が取材でいつも主眼を置いているのは、単なる美味しいものの情報ではなく、その奥にある作り手の想いである。そのことを彼らはきちんと理解してくださっているのだ。ライターとして、カメラマンとして、これほど嬉しいことはない。

「撮ル、書ク、喋ル。デ、世界ヲ明ルク。」という私自身の夢にも一歩近づいたような気がする。

ひとり飯のススメ。(11)

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まずは、告知から。

なんと、拙ブログで不定期連載中の「ひとり飯のススメ。」が、“ひとり”をテーマとしたWebメディア『DANRO』でも書かせていただくことになりました!

って、実は、ひとり飯は以前から『DANRO』で連載していたんですけどね。グループでの会食ではないので、感染リスクも少ない上にコロナ禍で飲食店を応援することにもつながるので、これからも『DANRO』でどんどん紹介していきますね。

danro.bar

今回、『DANRO』で紹介したのは、名古屋の喫茶店では定番の「イタリアンスパゲッティ」、略して“イタスパ”。皆様、是非ご覧ください!

さて、皆様は無性に天ぷらが食べたくなることはあるだろうか。旨いか不味いかは別として、寿司なら回転寿司やスーパーのパック寿司で代用できる。しかし、天ぷらは安いチェーン店やスーパーの惣菜と専門店とでは味に差がありすぎる。

昨日はどうにもこうにも天ぷらが食べたくなって、撮影の仕事の前に食べに行くことにした。私の中で天ぷらは、名古屋市北区清水の『天ぷら かき揚げ 光村』の一択だが、たまには違う店で食べようと思い、ネットで検索。

ヒットしたのが、吹上のイオンタウン千種の近くにある『天ぷら いづも』。ここはオープンして間もない10年ほど前に2、3回食べにきたことがある。いつも「かき揚げ丼」を注文するのだが、『光村』と比べてタレに奥行きが感じられなかったという記憶がある。とはいえ、そもそも『光村』と比べること自体がオカシイわけで、天ぷら専門店としてはレベルが高かったと思う。

あれからかなりの年月が経っているが、どうなっているのか。ちょっと気になったので、行ってみた。イオンタウン千種の駐車場は3時間まで無料なので、車を止めてJRの高架下まで歩いて店へ。

お昼時のピークタイムを過ぎていたので、客は私以外に1組。私が注文する頃には食べ終わって店を出て行った。注文したのは。「かき揚げ丼」(1200円)。

「無料でご飯を大盛りにできますが」と、言われたので遠慮なく大盛りに。10分ほど待って、かき揚げ丼が目の前に運ばれた。

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かき揚げ丼には小鉢と味噌汁、漬物が付く。またまた『光村』と比べてしまうが、こちらの方が海老の切り方が大きい。タレが染みた薄めの衣とほんのりと甘い海老がとてもよく合う。タレは以前に食べたときよりもかなり美味しく感じた。タレは注ぎ足しながら作っているだろうか。10年という月日がタレをより美味しくさせたのかもしれない。

ご飯の炊き加減もややかためで、私好みの仕上がり。小鉢のきんぴらごぼうや漬物も箸休めにはぴったりだった。味噌汁も味が濃厚で美味しかった。

やはり、天ぷらを食べるのは専門店に限る。とくに昼の天ぷらは何ともいえない贅沢感が味わえる。とても豊かな時間を過ごすことができた。今週は毎日、取材と撮影が入っているが、美味しいものを食べて乗りきろうと思う。

常に仕事モード。

相変わらず、足底腱膜炎で左足の踵が痛い。まともに歩けないほど痛いので、室内では踵の部分にクッション材が入ったサポーターをしている。屋外では靴の中に中敷を入れて凌いでいる。

おまけに左前腕も痛む。たぶん、これは腱鞘炎だと思う。以前に右腕が痛んだことがあって、病院へ行ったときにそう診断されたのだ。

こうも身体がガタガタだと、年をとったのかと思ってしまう。しかし、それを認めると、仕事でも何でも「老い」を理由にセーブしそうなので、絶対に認めない(笑)。50代であっても、ガンガンに身体を張る所存である。って、私ゃ芸人か。

それにしても、新型コロナの緊急事態宣言が発出する前から、仕事以外では誰にも会っていない。Facebookもやっていないので、友人たちがどこで何をしているかもわからない。まぁ、私に何か用があるときは連絡があるだろうから、問題はない。もともと1人で仕事をしているわけで、これっぽっちも寂しくはない。

私は私で一人の時間を満喫している。今、いちばん楽しいのは、夜に仕事を終えてから見ているAmazonプライムの映画。作品の背景にあるテーマを考えたり、構図やアングルなどのカメラワークを見たりと、とても刺激になっている。

んー、何だか取り止めもない話になっているな。今、仕事はかなりゆったりとしている。ヒマとも言うが、これも老いと同様に絶対に認めない(笑)。昨年4月と5月に緊急事態宣言が発出されたとき、HPや動画の制作以外に何もやることはなかったが、常に仕事モードにスイッチを入れていた。それが緊急事態宣言後の忙しい毎日に繋がったのだ。

フリーランスにとって、ヒマなことほど苦しいものはない。生活ができなくなるからだけではなく、三度の飯よりも好きで始めたことができなくなるのである。それは死を意味する。回遊魚のように常に動いていなければならないのだ。

「ひとり飯」のススメ。(10)

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50歳を過ぎて、いや、40代の半ば頃からこってりとしたラーメンが食べられなくなった。二郎系ラーメンなんかは写真を見ただけでお腹が一杯になるくらい。豚骨や味噌もダメだし、脂が多めの塩もキツくなってきた。と、なると、選択肢は中華屋の醤油ラーメンか、昔ながらの中華そばしかない。

ところが、なかなか美味しい店がないのである。食べログなどのグルメ情報サイトでの評価が高くても、実際に行ってみると口に合わなかったりする。

そんな中、本当に美味しいラーメンに出会った。昨日、瀬戸市へ撮影に行った帰りにたまたま立ち寄った店で。いや、正確に言えば、食べログで周辺検索をしたときにヒットしたのである。

それが名古屋市守山区四軒家にある『ひだ中華そば 陣屋』。食べログを見返してみると、昨年9月にオープンしたばかりのようだ。「ひだ中華そば」ということは、岐阜県飛騨地方の御当地ラーメン「高山ラーメン」であることは容易に想像が付く。

高山ラーメンは、スープとかえしを混ぜて煮込んでいるのが特徴。ずっとスープが入った寸胴鍋に火を入れているため、煮詰まってしまい、だしの風味をほとんど感じないハズレの店もある。

その昔、高山ラーメンの名店としてメディアに出まくっていた店にラーメン好きの友人と行ったことがある。店主は作務衣を身に纏い、タオルを頭に巻いた、いかにも職人風。接客が無愛想なところもまた期待を大きくさせた。

しかし、出てきたラーメンは、うっすーい醬油味しかしなかった。チャーシュー麺を注文したのだが、これも行けなかった。チャーシューと呼べるシロモノではなく、ただ豚肉をお湯で煮ただけ。さすがに残してしまった。ほどなくして、その店は潰れた。高山ラーメンは難しいのだ。

『ひだ中華そば 陣屋』で注文したのは、「ひだ中華そば大盛」(850円)に「チャーシュー3枚」(150円)をトッピング。出てきたのが、ブログのトップ画像のラーメン。ひと目見ただけで、これは当たりだと思った。

麺は、高山ラーメンらしく細麺。麺をすすり込むと、醤油の風味とともに魚介系の香り、鶏ガラのコクのあるスープの味がじんわりと広がる。見た目ほど濃くはなく、レンゲですくって何度も飲んだ。

卓上には、ホワイトとブラックの2種類のコショウと一味唐辛子と七味唐辛子、酢などがあった。酢をスープに少量くわえたところ、口当たりがよりマイルドになった。塩分を気にする年頃ということもあって、普段はスープをほとんど飲まないのだが、手が止まらなかった。

チデフォルトでのっているチャーシューは、トロトロの食感で、トッピングのチャーシューはやや歯応えのあるしっとり系。この違いもよかった。太いメンマも柔らかくて、やや甘めの味付け。これもスープとよく合う。味玉の黄身のトロトロ加減もベストだった。

「ひとり飯」の定番であるラーメンは、アタリ・ハズレが激しい。ただでさえ食べられるラーメンの選択肢が少なくなっている中で、こうしてアタリの店を見つけると本当に嬉しい。また名古屋の東部方面へ行ったら立ち寄ろうと思う。

約1ヶ月ぶりの「メイク&フォト」。

昨日は、約1ヶ月ぶりの「メイク&フォト」。尺八奏者である岩田昭彦さんから、ご自身が主宰する率バンドグループ『WAZZ』のアー写を撮影してほしいとのオファーをいただいたのだ。

岩田さんとのご縁は、名古屋市東区東桜の料亭『神楽家』での食事会。相棒の山村えり子さんは以前から面識があったようで、『神楽家』で岩田さんを紹介していただいたのである。

12月に三洋堂書店 新開橋店での「メイク&フォト」イベントに岩田さんの娘さんが参加してくださり、その写真を見た方々が「是非!」ってことになったらしい。つまり、写真を評価されたということである。これはカメラマン冥利に尽きる。

『WAZZ』のメンバー5名を午前中に撮影して、午後からは、岩田さんの奥様や、奥様のご両親、ご親戚、ご友人などなど8名を撮影。朝9時に現場に入って、途中で休憩を挟んだものの、終わったのが夜8時すぎ。

岩田さんには昼も夜も食事をご馳走になった。夕食を済ませた後は、皆で撮影した写真を見ることに。撮影後の感想や意見を聞くというのも、私にとっては貴重な体験だった。いや、本当にありがたい。

写真がフィルムからデジタルになり、撮影したその場で見られるようになった。しかし、撮影してからある程度の時間が経ったときに見る写真もまた違った楽しさがある。

決して安くはない「メイク&フォト」にご参加いただける方は、輝いている「今」を残したいがために来てくださる。何年後かにその写真を見たとき、「今」も違う色の輝きを放っていることに気がつくのである。

ちなみに、山村えり子さんは、過去の写真をよく眺めるらしい。たった1枚の写真にも、その頃の思い出がぎっしりと詰まっているのだ。だから、写真はすばらしい。「メイク&フォト」は、そんな写真のすばらしさや楽しさを伝える一翼を担っていると自負している。

岩田さん、昨日は本当にありがとうございました!昼食も夕食もご馳走様でした。とても美味しかったです。

山村えり子さん、お疲れ様でした!もっと、もっと多くの方々が「メイク&フォト」にご参加いただけるように頑張りましょうね!

これからの父子の関係。

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一昨日と昨日は、浜松へ出張。出発前に原稿や雑務をすべて終えてから向かったので、ホテルに着いてからはのんびりと過ごすことができた。

持参したiPadで何気なくAmazonプライムを見ていたら、TBSのドラマ『テセウスの船』が追加されていた。

www.tbs.co.jp

原作の漫画を少しだけ読んだことがあり、このドラマが見たくなった。見始めたら止まらなくなり、全10話をイッキに見てしまった。あ、途中でお腹が空いて食事(写真参照)へ出かけたが、それ以外はずっと。おかげで床に就いたのは深夜3時すぎ。昨日は眠くて仕方がなかった。

さて、このドラマでは、父子や家族がテーマとなっていて、見ているとどうしても自分自身のこととオーバーラップしてしまう。

私は世間でいう夫や父とはかなりギャップがあると思っている。良き夫で良き父なのかと問われると、まったく自信がない。思いきり自分勝手に生きているから、女房や息子たちにとって私はどんな存在なのか聞くのも、考えるのも怖い。

女房はまだ私のことを自分の父親と比較して見ることができる。でも、当たり前だが、息子たちは比較する対象がいない。父親は私しか知らないわけで、自由に、自分の好きなことしかしない私が彼らの父親モデルになっている。それも恐ろしい。反面教師として捉えてくれていればよいのだが。

娘と違って、息子は思春期を境に親、とりわけ父親からはどんどん離れていく。同じ屋根の下で暮らしているのに、私が仕事場に引き篭もっているので、食事以外で顔を合わせることはない。食事のときも別に話すこともない。

もう、これから距離が埋まることはないだろう。私自身もそうだったくせに、父という立場になってみると、とても寂しい。私の父もこんな風に思っていたのだろうか。

早いもので長男は23歳で、今年は次男も成人した。立派な大人だ。これから就職して、それぞれ自立していく。もう、父としては彼らに何も望むものはとくにない。ただ、元気で生きていてくれさえすればよい。

良し悪しは別として、息子たちに私の生きざまは十分見せた。あとは、といっても、もう少し先になるだろうが、死にざまをどう見せるかということだと思っている。

名もなき町中華店主の飽くなき挑戦。

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以前、ある飲食店の店主が出版する単行本の「帯」のコピーを書いたことをブログで紹介した。

https://nagoya-meshi.hateblo.jp/entry/2021/01/10/000000

単行本は自費出版であるが、1000部を出版する費用の一部をクラウドファンディングで募っている。

https://readyfor.jp/projects/chiryuramen

私は原稿を読んで、以下のようなコピーを考えた。

 

めざすのは、唯一無二の

餃子と醤油らーめん。

名もなき町中華店主の

飽くなき挑戦。

 

この本を書いたのは、いわゆる有名店の店主ではない。地元の愛知県知立市界隈では知られているが、名古屋ではまったくの無名。ゆえに、失礼を覚悟の上で「名もなき町中華店主」とした。

名もなき町中華店主こと内藤秀詩さんは御年御年72歳。「めざしたのは、」ではなく、「めざすのは、」と書いたのは、今もなお自分だけの、唯一無二の味を求めて厨房に立っているからだ。

餃子と醤油らーめんは、どの町中華にもある定番中の定番メニューである。しかし、これらが本当に美味しい店は意外と少ない。さらに、味覚とは主観であり、「美味しい」の基準も人それぞれ。だから、内藤さんの挑戦は正解もゴールもない。にもかかわらず、挑戦し続けている。めちゃくちゃカッコイイ。

内藤さんの人生は、決して順風満帆なものではなく、バブル崩壊もリーマンショックも経験してきた。そして、今は新型コロナの影響も少なからず受けている。でも、絶対に乗り越えると信じている。

クラウドファンディングでは、金額に応じてさまざまなリターンがある。どうか、皆様、ご協力のほどよろしくお願いいたします。