永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

思い出の味。

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今でこそ、フードライターとして「食べる」ことを仕事にしている私。想像ができないだろうが、幼い頃は偏食で色も細かった。嫌いな食べ物の方が多く、保育園や小学生の頃は家で何を食べたのかもよく覚えていないほど。

思えば、ラーメンは好きだった。「出前一丁」や「サッポロ一番」はよく食べた。小学校5年生くらいになると、自分で作るようにもなった。母は生麺の中華そばもよく作ってくれたな。

いちばん好きだったのは、家の近くにあるスーパーにテナントで入っていた中華料理店のラーメン。土曜日、家に母がいないときに食べに行った。当時はラーメンが一杯350円くらいだったと思う。

具材はチャーシューとモヤシ、メンマ、ネギ。スープは澄んだ鶏ガラベースの、中華料理店ならどこでもあるような、何の変哲もないラーメン。このブログで「チャーラーの旅。」をやっていたのも、この当時に食べたラーメンの味と再会したかったからかもしれない。

今はラーメンも多様化しているので、中華料理店も少なからずその影響は受けていると思う。実際、スープに豚骨を使っている店もあるし。だから、なかなか昔ながらのラーメンに出会うことができない。

「昔ながらの中華そば」を謳う店もある。しかし、現実は今風にアレンジを加えた「昔ながらの中華そば」風なのである。それも嫌いではないし、むしろ好きなのだが、やはり、幼い頃に食べた味をもう一度味わいたい。

そして、見つけたのである。かなり近い味を。それが名古屋市西区中小田井にある『蒼天』。たまたま通りかかって、「こんなところに中華が……」と思って入った。当時は「チャーラーの旅。」に力を入れていたので、目的はチャーラーだった。

ところが、町中華にもかかわらず、定番ランチのチャーラーがないのである。仕方がないので、醤油ラーメンに日替わりの小鉢とライスが付く「ラーメンランチ」を注文した。スープをひと口飲んで驚愕した。小学生の頃、スーパーのテナントに入っていた中華料理店で食べたあの味だったのだ。

澄みきったスープは奥行きがあり、中太麺との相性が最高。分厚くカットされたチャーシューは見た目はかたそうだが、口の中に入れると脂がスッと溶けて、赤身の部分もホロホロと崩れていく。メンマの味付けも辛すぎず、甘すぎず、スープとよく合う。麺とスープ、具材の一体感というか、いちいち丁寧に作っているのが伝わってくるのだ。

麺を半分食べたところで、コショウを軽く三振りくらいかけた。すると、味が引き締まるというか、激変した。あまりにも旨すぎて、レンゲでスープを飲みながら、あっという間に平らげてしまった。

20代や30代の頃は、こってり系のラーメンも好んで食べた。しかし、今はほとんど食べない。年齢のせいで体が受け付けないのもあるだろうが、50才を過ぎると昔食べた味が恋しくなるのだろうか。フードライターとしては味に対して保守的になってはいけないと常々思っている。でも、これは仕方がないことなのか。