永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

イタリアンスパゲッティ論。

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写真は、名古屋市東区泉『キャラバン』の「イタリアンスパゲッティ」、略して“イタスパ”。言わずと知れた名古屋めしの一つである。

イタスパを県外の人に「熱々の鉄板の上にのせたナポリタン」と紹介する人も多い。私もそうだった。だから、イタスパを別名「鉄板ナポリタン」と呼ばれるのも自然な流れだ。

「鉄板ナポリタン」という名称が生まれたのは、おそらくナポリタンがブームとなった2013年頃だろう。名古屋の誰かが、「名古屋ではナポリタンが鉄板の上にのっている」と言ったのかもしれない。それとも、東京の誰かの言葉だったのか。

「鉄板ナポリタン」という名称の由来は定かではないが、イタリアンスパの特徴を紹介するにはとてもよいフレーズだとは思う。だから私もそう説明していた。

しかし、よーく考えると、それは東京に寄せた言い方であろう。名古屋人ならば、元々からある「イタリアンスパゲッティ」という名称を守らねばならない。理由があるからこそ、その名が付けられたのであり、名称もまた文化なのである。

今後、私はイタリアンスパゲッティ(またはスパゲティ)以外の名称を使わないことにする。イタスパの由来については、ブログの過去記事に書いているので、是非ご覧いただきたい。

nagoya-meshi.hateblo.jp

イタスパの味付けは、ケチャップがメイン。他には塩、コショウ、顆粒のコンソメくらい。店ごとに麺の太さや具材の内容が異なる程度で、どこで食べても大差はない。家で作ってもそこそこ美味しい。と、いうよりも、イタスパは、美味しさを求めるものではなく、懐かしさというか素朴さが第一、と思っていた。

ところが、『キャラバン』のイタスパを食べてから、考え方が変わった。どこでも食べられる味だからこそ、しっかりと味を研究して真剣に作れば、まったく別物になるのである。それは、このブログで何度も登場している愛知県一宮市『チャーハン専門店 金龍』のチャーハンにも通ずる。

『キャラバン』のイタスパはベースとなるケチャップからまず違うのである。たしかにケチャップは使っているが、豚肉と玉ねぎをじっくりと煮込んだトマトソースがベースなのだ。

その深い味わいは、コンソメをくわえた程度では出ない。ひと口食べただけで、いかに手間暇がかかっているのかが伝わってくるのである。あんかけスパにも用いられる2.2ミリの極太麺を使っているのも、ケチャップだけの味とはまったく異なる力強い味わいに負けないためだ。

しかも、卵にも生クリームをくわえることで熱々の鉄板でも固まらないように工夫している。このトロトロの卵と絡めて食べるのがイタスパの醍醐味。

イタスパはナポリタンの派生料理といわれる。しかし、それも東京目線での考え方。イタスパは、イタスパなのである。