永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

取材拒否の店。

取材のアポを取ろうと電話をすると、「ウチは結構です!」と、断られることもある。その理由はさまざま。

よく耳にするのは、メディアに出ることで大勢の客が押し寄せて常連客に迷惑がかかるというもの。それと、取材と聞いていたのに後から金銭を要求されたというもの。あと、ただ単純に取材に対応するのが面倒くさいというのもあるだろう。

別に取材拒否の店を責める気持ちは微塵もない。それぞれの考えがあるのだから。

現在進めているムック本でもかなりの割合で取材を断られた。

「あー、そういうの、ウチはやってないから」と、電話をガチャ切りされたことも。店の考えを尊重したいという気持ちはあっても、正直「断るにしても言い方があるだろうよ?言い方がぁ!」と、切られた電話の受話器に叫ぶこともある。

今日はムック本の取材・撮影で静岡県磐田市へ行ってきた。取材先のリストを見ると、今日の現場から取材を拒否された店までそんなに離れていないことに気がついた。

あ、今回のムック本で紹介する店を決めたのは、実際に店に足を運び、料理を食べた専門家たち。彼らのコメントを交えつつ、取材した内容に基づいて記事を書くのが私の仕事である。

厳密に言えば、料理の味はすでに専門家たちによって確認されているわけで、私が食べる必要はない。が、間違いなく食べた方が書きやすいので取材に行っている。

話を戻そう。取材拒否の店にどうしても行きたくなり、少し早めに出発して取材の前に立ち寄ることにした。

到着したのは、11時50分頃。店内は満員で2名の客が店の前で待っていた。15分ほどで店内に入ることができた。案内されたのは、カウンター席。私の目の前で店主は忙しそうに料理を作っていた。

「あれが電話をガチャ切りした店主か……」

そう思いながら注文した料理が出来上がるのを待った。2品注文し、その1品は「お待たせしました。◯◯(メニュー名)です」と、女性の店員さんが席まで運んでくれた。

残りの1品は、2分ほど遅れて店主がカウンター越しに出してくれた。それも無言で。「お待たせしました」とも「◯◯(メニュー名)です」とも言わずに。ここの店主は、リアルでも無愛想のようだ。

いやいや、美味しければいいのだ。そう自分に言い聞かせながら料理を食べてみる。たしかに美味しい。昼間に満席になるのも充分に頷ける。この店は支店もあるようで、隣に座っていた客は支店よりもこっちの方が絶対に美味しいと感心しきりだった。

料理は美味しい。それは間違いない。でも、心が満たされないのは、やはり店主の対応だろう。そもそも「美味しい」をつくるのは料理の味だけではない。店の雰囲気だったり、そこで働く人たちの笑顔だったり、その場に居合わせた客の表情だったり、さまざまな要因が絡み合って感じるものである。

取材を断られてよかった。心の底からそう思った。お金を払って本を買ってくださった読者様に不快な思いをさせなくて済んだのだ。