永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

つゆと麺、具材のどれも完璧な一杯

ある冊子の取材で東区の『川井屋』へ行ってきた。創業は大正10年。店主の桜井太郎さんは、3代目。平成元年、23歳のときに店に立ち、今年で29年。先代から店を継いでから、新たに増やしたメニューはなく、逆にお品書きから外したメニューがあるという。

「昔は外食する場所といえば、うどん屋くらいしかなかったと思うんですよ。だから、ウチに限らず、昔ながらのうどん屋にはカレー丼やチャーハン、ラーメンとかもありました。それらを外したんですけどね」と、桜井さん。

客のなかにはカレー丼が好きな人もいただろう。しかし、麺類食堂として不要なものをそぎ落としていけば、本来メインである麺類や丼ものに集中できる。そこに職人としてのこだわりを垣間見たような気がした。

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さて、ここの「きしめん」だが、朱色の「名古屋かまぼこ」と煮揚げ、ほうれん草、花がつおがのる。薬味はネギと大根おろしが別皿で出される。

大根おろしは意見が分かれるところだが、麺にのる具材はどれも定番中の定番であり、これが名古屋のスタンダードと言ってもいいだろう。初めて見たときは、赤茶色のつゆにかまぼこの朱色とほうれん草の緑が映えて、とても美しいと感動した。

ムロアジに宗太鰹をくわえたダシは、野趣溢れる味のなかにそこはかとなく上品さも感じる。そんな完成度の高いダシに合わせるのはもちろん、うまみ成分の強いたまり醤油。麺ももっちりとした弾力があり、まさに私好み。もう、何から何まで完璧なのだ。桜井さん、ご馳走様でした!