永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

名古屋で「台湾」といえば…

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台湾、と聞いて何をイメージするだろうか?大半の方は中華民国、すなわち国名を思い浮かべるだろう。名古屋人はラーメンを連想する。台湾ラーメンは、千種区今池にある台湾料理『味仙』が発祥。昭和46年頃、台湾出身の店主が従業員の賄いとして、台湾ではポピュラーな小皿に盛って食べる「台仔(タンツー)麺」を辛口にアレンジしたのがはじまりだ。

その賄い料理を常連客に頼まれてメニューにくわえることになり、メニュー名は台湾人が作ったから台湾ラーメン、と、店主は軽い気持ちで名付けたという。しばらくは常連客の間での隠れた人気メニューだったが、80年代後半に起こった激辛ブームで人気に火がついた。市内の中華料理店やラーメン店もこぞって台湾ラーメンを出すようになった。今では台湾ラーメンを置いていない店の方が少ないほどである。

さらに、以前は地元食品メーカー、寿がきや食品台湾ラーメンのカップ麺袋入り即席麺を地元で細々と販売していただけだが、日清食品明星食品東洋水産エースコックなど大手メーカーの商品もスーパーで見かけるようになった。10年ほど前まではラーメンマニアの間で「名古屋にはご当地ラーメンがない」とされてきたが、今や名実ともに台湾ラーメンが名古屋のご当地ラーメンとなっている。

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『味仙』の台湾ラーメンは、鶏ガラスープのラーメンに台湾ミンチと呼ばれる、ニンニクや唐辛子で味付けしたピリ辛のミンチとニラがどっさりのっているのが特徴。実は私、『味仙』の台湾ラーメンが苦手である。辛いものは苦手ではないが、ここのは辛すぎるのだ。大量の汗とともに涙や鼻水も出てグチャグチャになってしまう。だから、いつも辛さを抑えた「アメリカン」を注文する。

ちなみに「アメリカン」は寿がきや食品のカップ麺にもなっていて、パッケージには「これぞ名古屋めし 台湾ラーメン アメリカン」と書かれている。これを名古屋以外の人が見たら、どう思うのかが気になって仕方がない(笑)。

台湾ラーメンは、店によってスープのベースが豚骨だったり、ニラ以外にもモヤシが入ったりとさまざま。共通しているのは台湾ミンチだ。これに着目して誕生したのが以前にこのブログでも紹介した『麺屋はなび』の台湾まぜそばである。

地元で台湾まぜそばがメジャーになるにつれて、台湾というフレーズはラーメンだけのものではなくなった。台湾=台湾ミンチを使ったピリ辛メニューという意味に変化しつつあるのだ。私がそれを確信したのは、台湾カレーの誕生がきっかけだった。

'14年、『麺屋はなび』の新山直人社長は、系列店の『鍋屋ほたる』でランチメニューに出していた台湾カレーの専門店『元祖台湾カレー』犬山市にオープンさせた。都心からかなり離れているにもかかわらず、週末は大勢の客で賑わった。

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これが台湾カレー(大須店にて撮影)である。皿の真ん中にのせられた台湾ミンチと卵黄は台湾まぜそばを思わせるビジュアル。卵黄を潰して、グチャグチャにかき混ぜて台湾ミンチとルーが全体に馴染んだところで食すのも台湾まぜそばと似ている。台湾ミンチがくわわっただけでカレーはまったく別物になる。台湾ミンチの肉の旨みと唐辛子とニンニクの刺激がカレーと絶妙にマッチしているのだ。

台湾カレーが世に出る前、台湾ミンチの用途は主にラーメン、または焼そばなどの麺類に限定されていた。しかし、台湾カレーの出現でほかの料理にも合うことが証明されたのだ。いや、ひょっとしたら、『元祖台湾カレー』よりも早く台湾ミンチを使ったメニューを出していた店があったのかもしれない。しかし、発信力のある『麺屋はなび』がメニュー化させたことで広まったのである。この新山社長の功績は非常に大きいと私は思う。

今ではあんかけスパカレーうどん味噌煮込みうどんなどの「なごやめし」に台湾ミンチをトッピングしたメニューを用意している店もある。「なごやめし」同士のコラボだが、どれも違和感なく楽しめる。まさに台湾ミンチは万能調味料なのである。台湾ミンチを使ったメニューはこれからもどんどん増えていくだろう。