永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

ティータイムを豊かにする喫茶店の「おつまみ」

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大阪のオバチャンのバッグやポケットに常備している「アメちゃん」。テレビでも取り上げられ、すっかり全国区になっているが、名古屋のオバチャンも常備しているモノがある。それは小袋に入った柿ピーやマドレーヌ。孫や知り合いの子供に、

「ほら、エエもんやるわ」とおもむろにバッグの中からそれらを手渡す光景をよく目にする。そのお菓子の出所が喫茶店なのだ。実は名古屋には、モーニング以外の時間帯、主にランチタイムが終わる14:00以降に喫茶店でコーヒーなどのドリンクを注文すると「おつまみ」が付いてくる独自の慣習というかサービスがある。モーニングと同様に、注文してないものが付いてくるわけで県外から来た客は困惑する。

しかし、物心ついたときから、このおつまみに慣れ親しんできた私としては、逆に何も付いてこないことに強烈な違和感を感じる。考えてみてほしい。たった1つのおつまみがあるだけで会話に花が咲き、優雅で豊かなティータイムを過ごすことができるのだ。

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おつまみにまつわる私の思い出話にも付き合ってほしい。ひと昔前はどの喫茶店にもカウンターに口の大きなガラス瓶が置いてあった。その中には豆菓子がぎっしりと詰まっていて、マスターが小皿に取り分けてコーヒーと一緒に出していた。私の母親は喫茶店が好きで、いつも豆菓子を紙ナプキンに包んで持ち帰っては食べさせてくれた。それがとても美味しく、私はいつも楽しみにしていた。

今でも小皿に盛った豆菓子を出してくれる店はあるが、昭和から平成へ変わる頃から小袋入りおつまみが登場した。湿気に強くて衛生的というのが理由だろう。オバチャンもこの方が持って帰りやすいし(笑)。小袋入りになってから種類も増えて、今は豆菓子よりも柿の種などのあられが多い。

名古屋の喫茶店がおつまみを付けたのは、昭和30年代。名古屋市内でピーナッツを扱う会社がコーヒーに合うということでバターピーナッツを売り込んだのが始まりらしい。

このサービスが広まったのは、名古屋の喫茶店で出されるコーヒーの味に関係している。以前にこのブログでも紹介した通り、名古屋では深煎りで濃厚な味わいのコーヒーが好まれる。バターピーナッツの塩気や油分がコーヒーの苦みを和らげて、口当たりがマイルドになるのである。おつまみは名古屋の喫茶店に欠かせないアイテムなのだ。

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モーニングと同様におつまみもその内容如何によって店の人気を左右する。しかし、モーニングほどお金がかけられないのが現状だ。豆菓子・あられ系のおつまみの場合、原価は約10円。なかには原価20円~30円の高級おつまみもある。それがプチケーキ系のおつまみだ。

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豆菓子・あられ系は、塩気と油分でコーヒーの苦みを和らげることは前にも書いたが、プチケーキ系は甘さ。それも今どきの控えめなものではなく、ひと昔前の、昭和的な懐かしさが残る甘さなのだ。

コーヒーなどを注文すればタダで付いてくるおつまみ。たかが原価10円~30円と思うかもしれないが、喫茶店にとっては完全に持ち出しなのである。これもまたマスターやママさんの「おもてなしの心」にほかならない。