永谷正樹、という仕事。

フードライター、カメラマンの日常を書き綴ります。

また、あのカレーが食べたい!

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まずは、告知から。

『Yahoo!ライフマガジン』にて、小牧市『圓家 小牧店』の「特製チャーハン」を紹介させていただきました。取材にご協力いただいた店主の長澤さん、ありがとうございました。

lifemagazine.yahoo.co.jp

『圓家 小牧店』は、このブログで紹介しましたが、どうしても実際に話を聞いてみたくて編集部にプランを送って実現しました。読者の皆様、是非ご覧ください!

さて、昨日、カレーのことを書いたので、思い出してしまった。わが生涯で間違いなく3本の指に入る美味しいカレーのことを。

その店は、ジャンルこそフレンチだが、とにかくお客を喜ばせるのが大好きで、フレンチという枠にまったく捉われず、自分が旨いと思ったものを出していた。いつ行ってもシェフのバイタリティーに驚かされた。

いつも取材は朝イチ。どの店も取材の開始時間はランチタイムが終わる15時くらいに指定されることが多い。が、シェフは毎日市場で食材を仕入れたその足で、早朝から店に出ているので、朝イチの方が都合がよいのだ。私も午後から別の仕事を入れることができるので、大歓迎だった。

店内、外観、料理、そしてシェフの写真を撮り、料理について話を聞く。何度も取材しているので、要点さえしっかりとおさえておけば記事は書ける。その日は撮影と取材、合わせて所要時間は1時間半くらい。

9時スタートで終わったのが10時半。店のオープンが11時半なので、スケジュールは完璧である。お礼を言って帰ろうとしたとき、シェフが

「ナガヤ君、ちょっと待って!」と、私を呼び止めた。そして、冷凍庫から何かを取り出して、保冷バッグに入れてくれた。

中身を見ると、真空パックに入ったカレーだった。「うわーっ!」と、思わず声を出してしまった。シェフに目をやると、ニッコリ笑っていた。

シェフの店では年に数回、お子様ランチならぬ「大人様ランチ」なるイベントを開催していた。フレンチの重鎮が大真面目に、全力を注いで作ったカニクリームコロッケやハンバーグ、カレーなどのいわゆる“お子ちゃま料理”を振る舞うというもの。

私がシェフからいただいたカレーは、まさに「大人様ランチ」で出されたものだったのだ。そりゃ声も出る。保冷バッグには2食分が入っていた。きっと、シェフは女房と一緒に食べてもらおうと思っていたのだろう。シェフ、申し訳ない。私がガメた(笑)。

とはいえ、食べるのがもったいないような気がして、しばらくは仕事場の冷凍庫に保管したままだった。いただいてから1ヶ月くらいは経っていたと思う。カレーが食べたくてたまらなくなったときに鍋で湯煎をしていただいた。

まず、玉ねぎの甘みが広がって、後から濃厚な肉の旨味とともにスパイスが複雑に絡み合った香りと刺激がじんわりとくる。まさに大人の味。と、文章で表現すると、読者の皆様はどこかで食べた、似たような味のカレーを想像するかもしれない。

しかし、どこにもない味だった。人にはやさしく、料理と料理に対峙する自分に厳しいシェフの人格がカレーにも現れていると思った。カレーの写真を探してみた。それこそ古いHDDを引っ張り出して必死で探したが見つからなかった。

また、あのカレーが食べたい!どれだけ願っても、それは絶対に叶わない。2年前のちょうど今頃、シェフは亡くなったのだ。あのカレーがどれだけ多くの人を喜ばせたのだろう。そう思うと惜しくてたまらない。仁さん、またあのカレーが食べたいよ。